第10話
コレットは間違いを認めない両親が許せなかった。
数日は干渉してくることはなかったが、コレットを無理矢理食事の席に呼び出しては焦ったように言い訳を繰り返す。
言葉にはしないがこれで許せと言われているようだと思った。
コレットは食欲がなくなり、すっかり痩せ細っていた。
豪華な食事に一口も手につけないコレットに苛立ったのか、怒りを露わにする両親。
「そ、それを食べたらそろそろ領地の仕事をしろよ!」
「またいつものようにリリアーヌの様子を見て、ちゃんと謝るのよ!あなたのせいでリリアーヌは落ち込んでしまったんだからっ」
「…………」
コレットは無言でテーブルを叩いて立ち上がる。
いつもコレットが食べているよりも豪華な食事が入った食器がガチャリと大きな音を立てた。
「な、なんだ……!」
「返事くらいしなさいよっ」
両親に言葉を返すことなく、彼らを睨みつけながら部屋へと戻った。
コレットはベッドにうつ伏せになりながら、悔しさや苦痛を噛み殺す。
あんな奴らのせいで泣いたら負けだとそう思うのに今回ばかりは涙が止まらなかった。
(もうこの家はダメだわ。こんなこともうたくさん……!)
コレットは何もかも捨てて、この家を出ていきたいと強く思った。
部屋に閉じこもり、ろくに食事もとらないコレットはボーっと窓を眺めていた。
毎日、父と母の怒鳴り声がコレットの部屋に響いた。
「書類が溜まっているぞ!どうにかしろ!」
「私たちはリリアーヌのそばにいなきゃいけないから、代わりに領地の視察に行ってきなさい!」
本来ならば自分たちの仕事なのに平然とコレットに押し付けている。
(もういい加減にして……っ!)
目の前に溜まっていく資料を無視することがコレットの僅かな抵抗だった。
両親も今回の件に関しては負い目があるのだろうか。
手を上げられることはなかったが、毎日「明日までにやっておかなければタダじゃおかないからな!」と言って部屋から去っていく。
このまま死ねたのならどんなに幸せだろう、そう思ってしまうほどにコレットは憔悴していた。
そしてパーティーの日から二週間が経とうとしていた。
ここ数日はあんなにうるさかった両親が何も言ってこないことを不思議に思っていたコレットだった
──コンコンッ
いつもより控えめに扉を叩く音。
返事もしないコレットに侍女はめんどくさそうに溜息を吐いた後に「ディオン様がお見えです」と言った。
(今更、何の用なの……?まさかあの時の説明を?)
僅かな希望を持ったコレットはディオンが来た知らせを受けて立ち上がり、軽くブラシで髪を整えて準備をする。
侍女がいなくても自分のことはすべて自分でできた。
嫌々やられるのも気分が悪いと思って見て覚えたからだ。
文句を言われながらやられるよりは慣れてしまえば楽でいい。
コレットはフラフラと部屋から出て来客用のサロンに足を運ぶ。
誰もいない部屋の前に立ち、後ろでクスクスと笑っている侍女たちを鋭く睨みつけると「こ、こちらです」と言って、案内されたのは何故かリリアーヌの部屋の前。
扉をノックすると鼻を啜る音と悲しげな「はい」という声。
嫌な予感を感じつつ、コレットは自分で扉を開けてリリアーヌの部屋に入る。
そこには目元が赤く腫れて小さく肩を跳ねさせているリリアーヌと、そんな彼女に寄り添うディオンの姿があった。
「コレットお姉様ったら、ひどいわ!」
そう言って持っていたハンカチで目元を拭う。
コレットは黙ってその言葉を聞いていた。
「いくらわたしが嫌いだからってこんなことしなくてもいいのにっ」
「…………」
この言葉やディオンがリリアーヌの隣にいることで、コレットの希望は打ち砕かれることになる。
コレットはリリアーヌとディオンを無表情で見つめていた。
(パーティーの失態をわたくしに擦り付けようとしているのね)
リリアーヌは自分の失態をすべてコレットに擦り付けるつもりなのだろう。
そしてディオンはそれを理解していながらもリリアーヌの味方をしている。
自分は悪くないと言いたげな顔にため息すら出てこない。
「お父様もお母様もディオン様も、コレットお姉様にはがっかりしていたわ!」
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