第5話
コレットが仕事を覚えて大量の資料を片付けると父が満足そうに頷く。
伯爵家を継ぐために……父や母にそう言われると、なんだかコレット自身を見てくれているようで嬉しくなった。
コレットは父の仕事を学び、手伝うことで時間を潰していた。
(この仕事をがんばれば、わたくしのことを認めてくれるかもしれない)
そんな淡い期待も数年後にはコレットに仕事を任せて楽をするためだと知って裏切られることになる。
当時は父の期待に応えるためにと、コレットは懸命に仕事を学んでいた。
そんなコレットに更に追い討ちをかけることが起こる。
必ず出席しなければならないパーティーがある。
それが国中の貴族が集まる王家主催のパーティーだ。
コレットは数ヶ月振りに外出することになる。
母はリリアーヌとミリアクト邸に残り、コレットはお手洗いに行くといって父から離れた。
(やっとヴァンに会える……!)
久しぶりにヴァンに会えるかもしれない……しかしいくら探してもヴァンの姿はない。
次第に外出が許可されるようになり、お茶会やパーティーに出席するようになっても、やはりヴァンを見つけることはできなかった。
コレットはヴァンが消えたことに大きなショックを受けた。
(わたくしがヴァンのことを話したりしたからこんなことに……っ!)
コレットは自分の愚かな行動を責めた。
まるで罰を受けているようだと思った。
それからあっという間に六年の月日が流れようとしていた。
コレットは今日もリリアーヌの部屋に座って、パーティーでの話をするように強請られていた。
コレットが顔を上げるとリリアーヌの部屋は様々なもので溢れていた。
両親からのプレゼントだろうか。
ドレスに髪飾り、アクセサリーに可愛らしい小物に人形。
すべてはコレットではなくリリアーヌに与えられる。
コレットは息苦しさを感じていた。
「わたしもコレットお姉様みたいにパーティーに行きたかったな」
「……」
「いつか王子様が迎えに来てくれないかしら」
「…………そうね」
コレットの興味なさげな反応に唇を尖らせたリリアーヌは侍女たちと話をはじめた。
コレットには侍女はいないのに、リリアーヌには二人の侍女がついて、つきっきりで世話をしているらしい。
コレットはあの一件の罰とでもいうように侍女の世話を受ける資格すら取り上げられてしまった。
それにはショックを受けるどころか笑えてくる。
「こんなわたしでも、結婚してくださる方がいたらいいな」
「リリアーヌお嬢様ならきっと、王子様の方から結婚を申し込んでくださいますよ!」
「だってこんなに美しいんですもの!」
リリアーヌは笑顔で手を合わせながらコレットの背後にいる侍女たちと談笑する。
こうしてコレットを呼び出したところで侍女たちと話すのに何故わざわざ毎日、部屋に通わなければならないのか意味がわからない。
コレットはこのくだらない時間から早く解放されるのを、ただひたすらに待っていた。
窓の外は晴れていて気持ちよさそうな風が吹いている。
まるでコレットを嘲笑っているようだ。
「コレットお姉様はどう?どんな方がタイプなのかしら」
「わからないわ」
「ああ、そうだわ!気になる令息はいるの?」
「…………いいえ」
「……チッ」
コレットがリリアーヌを見ることなく返事を返す。
小さな舌打ちは聞こえないフリをした。
コレットに選択肢などありはしない。王子様を夢見ることなど許されていないのだ。
それをわかって言っているのかいないのか。
リリアーヌの質問はいつも現実から離れてフワフワしている。
「もしかしてコレットお姉様の気に触ってしまったかしら!」
「…………」
「リリアーヌお嬢様が気にすることではありません!」
「折角、リリアーヌお嬢様が地味で暗いあなたを毎日毎日気遣って誘っているのに……なんて態度なの!」
「コレットお姉様を悪く言わないで!きっとわたしが悪かったのよ。ねぇ、コレットお姉様?」
コレットはいつものようにリリアーヌの歪む桃色の唇を見つめながら、冷めた視線を送っていた。
最近では侍女を巻き込んでこうしてコレットを責めている。
(いつもと同じ。もう飽きたわ)
いつもと同じだ。コレットの遠回しの悪口を聞き流した後に持っていた本をパタリと閉じた。
「……そろそろ失礼するわ」
「もう行ってしまうの?」
「今からお父様に資料をまとめておくように頼まれているから」
そう言うとリリアーヌはわざとらしく肩を跳ねさせた。
「コレットお姉様が羨ましいわ」
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