第32話
翌日、あたしは早めに家を出て学校へ向かった。
朝起きてから一応香澄にメッセージを入れておいたのだが、既読が付いたまま返事は来ていなかった。
あたしからのメッセージを無視するなんていい度胸だ。
今日は香澄に自分の立場を思い知らせないといけない。
今度は田村に香澄の相手をしてもらうのなんてどうだろう?
考えただけで心が躍る。
香澄は完全に再起不能になってしまうかもしれないが、あたしは香澄のカードさえ手に入ればそれで良かった。
その後香澄が自殺しようがどうしようが、関係ない。
「遅いなぁ」
校門前で待つこと5分。
他の生徒達も次々と登校して来て、約束時間は過ぎていた。
《星羅:ちょっと、まだ来ないの?》
イラついてメッセージを何度も送ったけれど、やはり既読になるだけで返事はなかった。
やがて10分20分と経過していき、ホームルームのチャイムが聞こえはじめてしまった。
香澄のヤツ、今度会ったらただじゃおかないから!
そう思い、舌打ちをしながら大股に教室へと向かう。
すぐに始まったホームルームで先生の話を聞いている間、あたしは何度もスマホを確認した。
しかしやはり香澄からの返事はない。
今までこんなことは一度もなかったのに……。
怒りと、微かな違和感が胸を刺激し始める。
ホームルームが終ったタイミングで席を立ちナツコに声をかけた。
「ねぇ、香澄と連絡が取れる?」
そう聞くあたしに、怪訝そうな表情を浮かべるナツコ。
「どうして香澄と連絡が取りたいの?」
普段ならすぐに教えてくれるのに、ナツコは冷めた視線をあたしへ向ける。
「理由なんてどうでもいいでしょ。教えてよ」
「めんどくさいから嫌」
ナツコはそう言うと、笑い声を上げて教室を出て行ってしまった。
あたしは唖然としてその後ろ姿を見送る。
「ちょっとマチコ。ナツコのあの態度はなんなの?」
「はぁ? 知らないし」
マチコは雑誌から顔を上げるとうざったそうな視線をあたしへ向けて、再び雑誌に視線を落とした。
なにかがおかしい。
そう感じて教室内を見回した。
みんながあたしを見てクスクス笑っている気がする。
みんながあたしを見てヒソヒソとなにかを話している気がする。
嫌な予感がして、背中にジワリを汗が滲んでいくのを感じた。
「星羅。赤点を取ったのはあんただからね?」
ユウカがそう言い、赤点のテスト用紙をあたしに突き付けた。
あたしがそれを受け取る暇もなく手を離され、バラバラとテスト用紙が床に落下して行った。
「この点数いくらなんでもひどいよねぇ」
「かわいそー夏休み消えちゃったね」
「でも自業自得だよね。ユウカに自分の名前を書かせてテストをさせたんでしょ?」
ヒソヒソ。
クスクス。
あちこちで笑い声が漏れて聞こえる。
あたしは咄嗟にそちらへ顔を向けて睨み付けた。
普段ならこれで止まるはずの噂話が、今日は止まない。
あたしを笑いものにする声はいつまでも続き、やがて教室全体を包み込み始める。
「なんなのあんたたち……あたしのことを笑ったらどうなるかわかってるの!?」
怒鳴ってみてもなんの効果もなかった。
ギギッと椅子を引く音がして田村があたしに近づいてくる。
「大丈夫星羅ちゃん。僕はずっと君の味方だからね」
そう言う田村に教室は笑いの渦に包まれた。
「星羅と田村だって、お似合いじゃん!」
「コトハよりもずっとお似合いだよねぇ!」
その言葉にハッとした。
そうだ、コトハはどうしたんだろう。
視線を向けると、コトハの机のまわりには数人の生徒たちが集まり、談笑しているのがわかった。
それは昨日までコトハをイジメている2人組だったのだ。
どうして……!?
わけがわからず、あたしは大股にコトハに近づいた。
2人組は顔をしかめてあたしを見つめる。
「どうしたの星羅?」
「どうしたのじゃないじゃん、これどういう事!?」
「どういうことって言われても……」
コトハは呆れたようにため息を吐きだし、そしてあたしを見て笑った。
「これが音楽の副作用だよ?」
「は……?」
あたしは目を見開いてコトハを見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます