第18話

☆☆☆


多目的トイレから香澄の悲鳴が聞こえて来たのはその日の休憩時間中だった。



どうやらあたしの言葉に逆らうことができず、本当に実行したらしい。



悲鳴をかけつけた生徒たちが多目的トイレのドアを開けようとしたが中からしっかりとカギがかけられて開かない。



先生たちが駆けつけてドアをあけた時にはもう、香澄は全裸にされていた。



先生のスーツの上着を着せられて歩いて行く香澄を見て、あたしはほくそ笑む。



どこまでやられたのかわからないけれど、香澄の白い足元にはポタポタと鮮血が滴っていた。



「星羅、あんなことされたの」



運ばれて行く香澄を見てコトハが心配顔を向けて来た。



あたしは慌てて左右に首を振る。



「違うよ。あいつらバカだもん」



香澄と一緒に連れて行かれる三好君と明智君と見て、あたしは笑ったのだった。


☆☆☆


香澄と男子生徒はいなくなった。



といっても男子生徒たちの方は謹慎処分だけで戻ってくることができるかもしれない。



なにせ、学校内での淫行に誘ったのは香澄の方なのだから。



香澄はもう学校へ来ることはできないだろう。



いくら金持ちの娘だからと言って、なにもかもが許されるわけじゃない。



それに、本人も恥ずかしくてとても戻っては来れないだろう。



「香澄がいないと平和なクラスだねぇ」



窓際に立ってコトハが行った。



「本当、静かになってちょうどいいよね!」



あたしは満面の笑みでそう答えて大きく伸びをした。



マチコやナツコなど、香澄の取り巻きたちもてんでバラバラなグループを作って、群れることはしなくなっていた。



「でも、せっかく香澄のことを奴隷にしたのに、学校に来なくなるのはもったいないよね?」



コトハの言葉にあたしはニヤリと笑った。



今までの怨みはあれだけのことじゃ解消されない。



もちろん、香澄を手放すつもりなんて最初からなかった。



「今日の放課後、面白いものを見せてあげるからおいでよ」



あたしがそう言うとコトハはキョトンとした表情を浮かべたのだった。



「面白いものってなに?」



コトハがあたしの後ろからついて来て声をかける。



外はとてもいい天気で日差しが眩しかった。



「これから香澄と約束してるの」



「香澄と?」



コトハが驚いた声を上げる。



「いつ香澄と連絡先を交換したの?」



「あたしが香澄に音楽を聴かせた日だよ。香澄が早退するときに昇降口に先回りして待ってたの」



そう答えるとコトハは感心したように頷いた。



「そうだったんだ。全然気が付かなかった」



そのまま歩いているとファミレスが見えて来た。



大きなガラス窓の中へ視線を向けると猫背の香澄が青白い顔をして座っているのがわかった。



「香澄、持って来た?」



ファミレスに入り声をかけながら向かい側の席に座る。



あたしの顔を見た瞬間香澄は怯えたように体を震わせた。



「も、持ってきたよ……」



そう答えて慌ただしく白いバッグを開く。



中から出て来たのは茶封筒だった。



手に持っていると結構な分厚さがあり、ズッシリと重たい。



あたしは自然と頬を緩めてほほ笑んでいた。



「それなに?」



横からコトハが聞いて来たので封筒を開き、中身を少しだけ見せてやった。



そこに入っていたのは札束だったのだ。



1万円札が30枚ほど入っている。



「これって……!」



コトハがそう言い、絶句してしまっている。



「い、慰謝料です」



そう言ったのは香澄だった。



「慰謝料?」



コトハがあたしへ向けてそう聞いて来た。



「そうだよ。香澄があたしにやったことは犯罪だもん。慰謝料を貰うのは当然でしょう?」



そう言うと、香澄が小さく頷いてそして俯いた。



「さすが香澄だよね、すぐにこんな大金を準備できるなんてさぁ」



あたしは運ばれて来たストレートティーを飲んで香澄を見る。



「うん……」



「じゃ、これからもよろしくね? コトハ、今日はこれで買い物しに行こう!」



あたしはそう言い、香澄を1人置いてファミレスを後にしたのだった。


☆☆☆


その日はコトハと2人で思う存分好きなものを購入した。



今までのストレスを発散するように封筒内のお金は消えて行く。



「あ~あ、後1万円しかないじゃん」



コトハが封筒の中を確認してそう言った。



「いいじゃん別に。なくなればまた貰えばいいんだから」



あたしの言葉にコトハの目が輝く。



「そうだよね!」



「そうだよ! あたしたちにはお金持ちの奴隷がいるんだからさ!」

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