第11話

「全部俺のせいだ。ごめん星羅」



海の言葉にあたしは自分の耳を疑った。



「海……今、なんて?」



そう聞く声が震えていた。



「俺のせいだ。ごめん」



『俺のせい』……。



それは海が絶対に言わない言葉だった。



俺が殴るのは星羅のせい。



星羅が悪い事をしなければ俺は殴らない。



今までずっと、そう言われて来たのだ。



気が付くと頬に涙が流れていた。



海が素直に謝ってくれることがあるなんて、思ってもいなかった。



「海……海はあたしのことを、どう思う?」



「俺は星羅のことが大好きだよ。大切にして、守りたいと思ってる」



あたしの体をきつく抱きしめて囁きかける海。



それは、あたしがずっと欲しいと思っていた温もりと言葉だった。



好きな人とは一緒にいるだけで幸せ。



その意味がようやくあたしにも理解できた瞬間だった。



「あ……あたしも海が好きだよ」



あたしは恐る恐る海の背中に自分の両手を回した。



「すっげぇ嬉しい! 絶対に大切にするから!」



海の歓喜の声にあたしの涙は止まらなくなってしまったのだった。


☆☆☆


それからの時間はまるで夢のようだった。



海は本当に優しく、いつもなら地雷になりうる言葉を発してもあたしを殴る事は一切なかった。



それ所か今までの行為をすべて謝罪し、あたしとの結婚のために頑張って社会へ出るとまで言ってくれたのだ。



家に帰ってからも海がくれた言葉の数々が頭の中でリピートされていて、あたしは何度も安息をついた。



あたしが大好きな海だ。



最初に出会った事の海。



ううん、それ以上に優しいかもしれない。



思い出すだけでやっぱり頬が緩んでいく。



幸せな気分のまま眠りにつこうとした時、不意にコトハの顔が思い出された。



そうだ。



この幸せはちゃんとコトハに伝えないといけない。



なんせあのアプリを教えてくれのはコトハなんだから。



スマホで時間を確認するとすでに夜の12時を回っていた。



でも今日は土曜日だ。



きっとコトハもまだ起きているだろう。



そう思ってメッセージを送る。



《星羅:まだ起きてる?》



《コトハ:起きてるよ! こんな時間に珍しいね? どうしたの?》



暇だったのか、コトハからの返事はすぐに来た。



《星羅:今日、海とデートだったの》



《コトハ:そうなんだ。大丈夫だった?》



《星羅:最初、海の機嫌を損ねたみたいで、2回蹴られた》



《コトハ:嘘、大丈夫なの!?》



その反応にあたしはクスッと笑った。



あたし自身、あの時はどうしようかと思って焦った。



今度こそ海の暴力は止まらず、あたしも逃げることができないかと思った。



下手をしたら殺されてしまうんじゃないかとも……。



《星羅:途中でアプリを使うことに成功したの》



《コトハ:そうなんだ! 海、どうなった?》



あたしは音楽を聴いた後の海の様子を事細かにコトハに伝えた。



いつの間にか眠気は冷めて、時刻は夜中の1時近くになっている。



《コトハ:すごいじゃん! 人格矯正できてよかったね!》



コトハのメッセージはあたしは少し眉を寄せた。



人格矯正という言い方はあまり好きではなかった。



海は元に戻ったのだ。



元の、優しい海に戻っただけなのだ。



あたしは自分でそう感じていた。



《星羅:コトハのお蔭だよ。ありがとう》



《コトハ:星羅は友達だもん! 幸せになって欲しいしね》



《星羅:コトハはどうなの? 誰かを変えたいと思ったりしないの?》



その質問の答えは少し時間がかかってからあった。



《コトハ:全くないワケじゃないよね。クラスの香澄とかはやっぱり好きになれないしさ。でも我慢できないこともないしね》



《星羅:コトハもダウンロードしておけばいいじゃん! 別に、使いたくないから使わなくていいんだし》



《コトハ;そうだねぇ……。星羅で試したみたいになっちゃってなんだか嫌だけど》



その文面にあたしはプッと噴き出した。



そんなことを気にしていたのか。



《星羅:気にしなくていいよ! 使えるアプリなんだからどんどんダウンロードしなきゃ!》



《コトハ:そうだね。あたしもダウンロードしてみるよ!》

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