第78話:いくつもの秘密
この僕、和達譲司が、梅鉢彩華さんと共に、再度学校へ訪れ、スポンサーと共に今回のいじめについての糾弾を行う――既に梅鉢さんは親御さんからの了承を得ており、僕も梅鉢さんの助言を得て何とか父さんや母さんの説得に成功した事で、この作戦を実行する事がようやく確定した。
また、父さんや母さんは、今回の作戦の実行日時などの秘密を守ってくれることも同時に約束してくれた。僕の身の安全を考えれば、秘密にするのも当然のことだ、と納得してくれたことも大きかった。
そして、僕たち2人はそう言った機密事項への明言を避けた上で、『鉄デポ』のプライベートルームに集まってくれた皆にも一連の出来事を決定事項として報告した。皆もまた、僕たちの事をずっと心配し続けている。言えない事は多いけれど、それを省いた上で重要な内容は報告しておいた方が良いだろう、という梅鉢さんの指示に従う形だった。
『え、じゃあジョバンニ君も一緒に行くって事……!?』
『それは無茶じゃないかな?そもそも2人で学校に殴り込みをかけるって行為自体が心配なんだけど……』
当然、驚きと共に反対の立場を鮮明に示した幸風さんや美咲さんに、僕ははっきりと言った。一緒に行くと梅鉢さんに告げたのは、この自分自身だ、と。勿論、怖くないと言えば嘘になるけれど、あの『学校』と言う存在に怯えてばかリの状況の方が、今の僕には耐えられなくなっている、と皆へ向けて僕は正直に思いを語った。
『……ま、まあそれは分かるっすけど……気持ちばかり焦ってる感じじゃないっすよね?』
「ナガレ君……僕は、最初にその考えが浮かんでから1日置いてみたんだ。それでも、その考えは頭から消えなかった。むしろ鮮明に僕の頭に今後のビジョンを描くようになったんだ……」
『……あー、そっか……単に焦って考えたんじゃなくて、真剣に考えた結果って事っすね……』
そして、ナガレ君だけではなくトロッ子さんも、僕や梅鉢さんの事が不安で仕方ない、と述べた。
相手はあの学校を牛耳っている理事長の息子だというし、下手すれば権力を振りかざしてとんでもない事をしでかすかもしれない。もしそのような事になったら、絶対にただじゃすまないと思う、と。
『恐らく私だけではなく、皆がお二人の事を心配していると思います。成功を疑っている訳ではありませんが、それでも……』
『トロッ子さん……』
そんなトロッ子さんへ向けて、梅鉢さんははっきりと告げた。この自分が責任をもって、自分自身と『ジョバンニ君』の身も心も絶対に守りきってみせる、と。
そこまで自分を追い詰める必要はないのに、と固すぎる決意に対して意見を申したトロッ子さんだったけれど、その決意が揺るぎないものである事をもう一度梅鉢さんは皆に宣言した。そもそも事前の対策を万全にとっていなければ、このような行為を思いつく事は無かった、と付け加えながら。
『……つまり、ジョバンニ君と彩華ちゃんには、あの連中への勝算があるっていう事ね』
『はい……「絶対」に勝ってみせます……いえ、勝ちます』
真剣に語る梅鉢さんに合わせて、僕もはっきりと、相手に『負けない』事を宣言した。これでもう後戻りはできないだろう、という覚悟を込めながら。
『そうか……うん、詳しい内容を言えないのは仕方ないか。それだけ、2人が真剣に挑もうとしている証だろうからね』
『そうですわね。ここまで話が進んでいた以上……』
自分たちに出来る最良の策は、2人と『スポンサー』の行方をじっくり見守り、皆の奮闘を応援する事だ――教頭先生とコタローさん、2人の大人が導き出した結論は、僕の父さんや母さんと同じような言葉だった。
『うんうん、他人から見れば無謀な事でも挑戦しようとする……これも1つの「青春」なんだろうねぇ』
『何言ってんだか、教頭先生は……』
ともかく、何とか『鉄デポ』の皆も、僕と梅鉢さんの判断を尊重してくれる事を示してくれたのは、本当に嬉しかった。
それについて、改めて2人で礼を行った時、突然動画配信者のナガレ君が何かを思いついたように大声を上げた。急にどうしたのか、と気になった僕に返ってきたのは、とんでもない提案だった。
「え、え、ちょ、ちょっと待って……!それは流石に……!」
『でも俺たちだってジョバンニ君や彩華さんを応援したいっすよ!だから、「鉄デポ」の皆で集まって盛大に見送りをするっていうのを思いついたんすけど……』
『いやいや、それは流石に無理じゃないかな。いつ実行するかは2人の秘密だし、そもそもナガレ君、どこで見送るつもりなの?』
『あ、そ、それは……ほら、学校の正門とか……!』
『それ、逆に足を引っ張りそうな気がするんだけどさ……』
『わ、私もちょっとそれは……』
やっぱり無茶過ぎたか、とナガレ君は残念そうな声をあげた。
気持ちは分かるけれど、そこまで大袈裟な事をされてしまうとこちらが余計に緊張してしまいそうな気がするし、下手すればナガレ君たちも何かしらの迷惑を被ってしまうかもしれない。それに、皆のスケジュールが合うかどうか、という根本的な問題もある。そう考えた僕と梅鉢さんは、丁重にその案をお断りする事にした。
ただ、ナガレ君が露呈させた、『気持ちだけではなく、自分たちも何かしらの形で応援したい』という思いは、他の面々にも共通しているようだった。しばらくの間、僕の耳にはナガレ君や美咲さん、トロッ子さんたちが悩んでいる事を示す唸り声が響いていた。
すると、モデルにしてインフルエンサー、皆に人気のギャルである幸風さんが、ある事を尋ねてきた。
今回の『作戦』――スポンサーと共に糾弾する、と言う行為を実行する日付は明かせないと言っていたけれど、それを見事に成功させた、という報告はちゃんと皆にやってくれるのか、と。
『ええ、それは間違いなくするつもりよ。皆に心配をかける訳にはいかないもの』
『そっかそっか……よし!あのさ、ナガレにミサ姉さんにトロッ子?後で新しいプライベートルームを作るからさ、ここでの会話が終わったらそっちに移動してくれない?』
『え、何すか?』『どうしたのかな?』『何でしょう……?』
『ちょっといい事思いついたんだよね!』
非常に気になるからその内容を教えてくれないか、と尋ねた梅鉢さんだったけれど、返ってきたのは『機密事項』だから明かせない、という言葉だった。
『今のジョバンニ君や彩華は沢山「秘密」を抱えてる。だったらあたしたちにだって、「秘密」があってもおかしくないでしょ?』
「そ、そういうものかしら……」
『そういうものだよ、彩葉さん』
互いに明かせない『秘密』を心に秘めながら、『目標』に向けて動き出す。形は違えど、僕たちと幸風さんたちが行おうとしているのは同じである――僕は、そう認識する事が出来た。
『ちょっと引っ掛かるけれど……悪い事じゃないのは間違いないわね』
『当然だって!むしろ、2人のために、そしてあたしたちのために、ちょっとした事を……ね』
『分かった。そちらの成果を報告できる日も、楽しみにしておくわ』
『やれやれ……すっかりおっさんな私たちは、若い皆を暖かく応援しますかねぇ、コタローさんや』
『それが一番ですわねぇ、教頭先生』
『なんで2人揃って老人になっているんですか……』
梅鉢さんが突っ込むようなちょっとした冗談が飛び出すほどには、この『鉄デポ』のプライベートルームも普段通りの和気あいあいとした空気が戻ってきたようだった。
そしてそれは、僕たちにとって大きな励みになった。
この『平和』な空間へ帰ってくる事。それが、あと少しで訪れる正念場へ向けての大きな目標になったのだから。
『……ま、とにかく、みんな出来る限りの事をやろう!後悔しないように、ね!』
「……はい!」
『はい!』
教頭先生の言葉に、僕や梅鉢さんたち『鉄デポ』の面々は大きな声で返事をした。その時、僕は一瞬だけ、見ず知らずの教頭先生が僕たちの本当の『先生』、もしくは『顧問』であるような思いを感じた……。
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