第63話:第一作戦結果報告
『よっし、第一作戦、大成功!』
『やったっすね、ミサ姉さん!』
『まあ、こんな感じかなー』
『一応、上手くいったかもしれないですね……』
こう語る4人――幸風さん、ナガレ君、美咲さん、そしてトロッ子さんたちが主導する形で行われた、『鉄道オタク』だからと言う理由で僕をいじめ続け、梅鉢さんにもその牙を向けようとしていた、稲川君たち僕のクラスの面々に対して一撃を食らわせるという作戦。結果的にクラスの中に不和や不安を生じさせ、稲川君を相当苛つかせることが出来た、と梅鉢さんは『鉄デポ』のプライベートルームでこの皆に向けても報告した。
「何というか……お礼を言って良いのか……」
『私はお礼を言っておきたいわね。偽りの「告白」で私の心を傷つけた分のお返しをしてくれて、感謝するわ』
『どうもっす。でも、ジョバンニ君が悩む気持ちもちょっと分かるっす』
『まあ、確かに自分たちがやられると……ねぇ』
『結構ショックが大きい作戦だと思います……』
やはりそのようにショックを与える事を狙って、『鉄道』に関する内容や『鉄道オタク』を称賛するコメントを投稿していたのか、と改めて尋ねた僕たちに、幸風さんやナガレ君たちはその通りだ、と返した。
以前、僕は幸風さんたち様々な方面で活躍を続けている有名人の皆を、クラスの面々も応援している事を教えた事があった。その時はまだ彼らが僕をいじめ続けている事を教えていなかった事もあり、身近な所にもファンがいる事を幸風さんたちは素直に喜んでくれていた。でも、この作戦を経た4人によるクラスの面々への評価は、正反対のものになっていた。大切な友達の心身を傷つけるばかりではなく、自分たちも大好きな『鉄道』と言う趣味を馬鹿にする連中に応援されたくない、ファンなんて言われたくない、と。
『だから、わざと見せつけたんだよねー。私たちがみーんな鉄道が大好きっていう所を』
『そうです。私がシグナに鉄道シミュレーションゲームを勧めたのも、シグナも「鉄道」と言う要素を楽しんでいる事をクラスの人たちに教えるためです』
そう語る美咲さんやトロッ子さんの言葉は、まさに僕と梅鉢さんが予想した内容通りだった。
でも、そもそもどうしてそのような策――『鉄道』を楽しむ様子を見せつける事で、それを嫌う相手を苦しめる、という作戦を選んだのか、それに関しては、幸風さんやナガレ君が教えてくれた。虐められている人たちに対する言説に『例えいじめられていても、最終的にそれを乗り越えて人生を楽しんでいる様子をいじめる側に見せつけるのも1つの復讐かもしれない』というものを見た事がある、と。
『で、これの考え方を変えてみれば、「いじめる側」は「いじめられる側」が持つ属性の楽しい話題を嫌がる、っていう事にもなるんじゃないか、って思ったんすよ。しかもそれが無視できない状況だと猶更……』
『めっちゃ嫌いな事に関するポジティブな話題が、あらゆる方法からやって来る……あたしがやられたらすっげーやだ!』
『しかも、その発信源はよりによって憧れの俺たち。怒りと苛立ちで嫌な気分になること間違いなしっす!』
だからこそ、敢えてこの作戦を選んだ、と2人は語った。大好きな事=鉄道に関する事を語りまくるだけで友達の仇討ちが出来る、という奇策を。
そして、同時にこれは自分たちの実益も兼ねている、と言葉を続けたのは、意外にも幸風さんだった。
幸風さん――モデルやインフルエンサーとして女性を中心に大人気の幸風サクラさんは、今回の作戦にあたって自身のSNSに、今まで書くことが無かった『ブルートレイン』に関する話題を一気に投稿していた。当然、これらはネットニュースや各地の動画、更には一部のワイドショーにも取り上げられ、あの人気モデルが昔の寝台列車に興味があると言う意外な一面を見せた、と話題になっていた。
『あたしさ、最初にジョバンニ君と出会った時に言ったじゃん?覚えてる?ブルートレインと絡んだ撮影とかやってみたい!って』
「あ、ああ、そういえば……確かそんな事が……」
『でもさ、あたしずっとブルートレインに関する話題を取り上げた事が無かったんだよね。今思うと何となく怖さみたいなのがあったのかなって』
『俺が鉄道の話題の動画をずっと取り上げなかったのと同じ感じっすか?』
『あー、確かにその通りかも』
でも、この作戦を聞いて、自分に出来る事は何かと考えていた時、ふとある事に気づいたという。
ブルートレインとの撮影を夢見るのなら、まず自分が『ブルートレイン』という列車種別の事を好んでいるというのを全世界にアピールしないと、誰にも気づいてくれない、という、幸風さん曰くごく当たり前の話を。
そして、この機会に合わせて、幸風さんは両親がかつて撮影していたという写真も借りて、自分の『好き』という想いを存分にSNSへ溢れさせた、という訳である。
『なるほど……ご両親もよく許してくれたわね』
『へへー♪でも、あたしだけじゃなくて他の皆も同じような感じだったんでしょ?』
その問いに、同意の答えを見せたのは、VTuberの『来道シグナ』さんの代理人を務めているというトロッ子さんだった。
実は、以前からシグナさんも新しく挑戦する実況動画用のゲームを探しており、何か新鮮なネタは無いか悩んでいた。そこで、トロッ子さんは、今まで挑む機会が無かった『鉄道』と言うジャンルに挑んでみるのはどうか、と勧めた。そして、動画配信の許可がゲームの販売元から下りたタイミングが、丁度今回の作戦と重なった、という。
少々レトロなゲームだった事もあってか、シグナさんの動画にはゲームを懐かしむ人たちやアドバイスを行う人、運転した路線に乗った事がある人、果ては実際に運転したと名乗る鉄道オタクにして運転士の人まで集まり、結果的に今までよりも視聴者数が増加した、とトロッ子さんは嬉しそうに語ってくれた。
「へぇ……あの実況している動画の裏で、そんな事が……」
『私たちの方は偶然が重なる形でしたけれど、作戦に加わって良かったと思っています』
『みんな凄いねー。ま、私がブログにアップした旅行写真も喜んでくれる人がいて嬉しかったよー』
『ミサ姉さんたち「スーパーフレイト」は元からファンが多いっすからね』
美咲さんの方も、同じように『鉄道』を取り上げた事が、何だかんだでプラスに働いたようであった。
だけど、そんな中で僕はずっと心配していたことがあった。今までの慣習を破り、動画内に鉄道に関するネタをふんだんに取り入れた動画配信者の飯田ナガレ君の事だった。
先程幸風さんに指摘した通り、ナガレ君はこれまで『鉄道を動画に含めると表現の幅が狭まるかもしれない』と言う危惧から、動画に鉄道ネタを入れる事を封印し続けていた。でも、それを破ってしまって本当に大丈夫だったのだろうか、僕は今までずっと心に溜めていたこの心配事を正直に尋ねた。
『……あー、そういえばそんな事言ってたっすね、俺』
「う、うん……僕たちのために、大事な約束を破らせてしまって……なんだか申し訳なくて……」
『いやいや、恐縮しなくていいっすよ!大切な友達のためなら、そんな「身勝手」な約束、ビリビリ破った方がいい、って考えてたっすから』
「えっ……!?」
『そうですよ、ジョバンニさん。表現の幅なんて、これからのナガレ君の努力次第で解消できる内容です』
『そうそう、俺を舐めてもらっちゃ困るっすよ!』
「な、なるほど……」
自分が描いていた『ナガレ君』以上に、『鉄デポ』越しに話している現実世界の『飯田ナガレ』は元気で逞しく、そして強い。皆の助言もあり、僕は改めてそれを実感する事が出来た。
そんな中、気になる発言をしたのは梅鉢さんだった。美咲さんの事務所の社長、VTuberのシグナさんの中の人まで巻き込んだ、この大掛かりな作戦。一体誰がその発案者だったのか、と。
『気のせいかもしれないけれど、ここまでピンポイントに「あいつ」の心を抉っているのが、少し不思議に感じたのよ。私たちの学校の生徒じゃないのに、どういう事なのか、って』
「あ……確かに……」
そう、今回の作戦は見事に『鉄道オタク』――鉄道を趣味に持ち、大いに楽しむ人々を毛嫌いしている稲川君の苛立ちを深め、クラス全体の結束を乱す結果になった。僕や梅鉢さんからの詳細な説明があったとはいえ、見ず知らずの僕たちのクラスを狙いすましたかのように攻めることが出来たのは、何か秘密でもあるのだろうか、僕も少し気になってきた。
すると、それに答えたのは――。
『……あー、そっか、まだ俺、ジョバンニ君や彩華さんに言ってなかったっすね』
「えっ?」『何を……?』
――既にその答えを幸風さんたちに説明した、というナガレ君だった。
今後のためにも是非伝えた方が良い、と他の皆が背中を押す声を聞き、少し悩んだような声を発したナガレ君は覚悟を決めたように語り始めた。その口調は、いつもの明るく気さくでお調子者な雰囲気を醸し出すものとは少し違う、どこか真剣な響きだった。
『……今回の第一作戦、提案したのはずばり俺っす』
「ナガレ君……だったの?」
『昔の思い出を基にして、考えたんすよ。チビだった頃の出来事をね……。なんつーか、「いじめ」、みたいな?』
『えっ……!?』
「いじめ……え、ナガレ君が……!?」
そしてナガレ君は、自分が『鉄道オタク』と言う理由で起きた、小さい頃の苦い出来事を僕たちに伝えてくれた……。
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