第13話:鉄道オタクで優しいギャル
『
ヘッドライトのような眩しい笑顔を見せ、初対面の僕にも積極的に話しかける、文字通り『陽キャ』の立場にいそうな人。
でもその中身は、僕や梅鉢さんと同じ、大の鉄道オタク。
「そういう事なんで、よろしくー♪」
そう言いながら気さくに接してくる幸風さんの服や鞄には、自身の趣味や嗜好をしっかりアピールするものが取り付けられていた。
かつて日本各地を走っていた寝台特急列車『ブルートレイン』のヘッドマークを模した、様々なバッジやアクセサリーだ。
梅鉢さんに負けず劣らず――いや、失礼ながら梅鉢さんよりも様々な箇所でスタイルが良いかもしれないその体つき以上に、幾多もの鉄道オタクの証に視線を注いでいた僕は、自然にその時の思いが表情に現れてしまっていた。
「あれ、もしかしてあたしが『鉄オタ』だってのを意外って思ってるでしょー?」
「え、あ、あ、ごめんなさい……!つ、つい……」
女性の方にも鉄道オタクはしっかり存在しており、ギャルだってそういう可能性はあり得る、という事を、心の中でしっかり認識しているはずだった。
でも、いざ実際に会ってみると、その風貌からはそう思えない、意外だ、という『性別』に基づいた偏見を抱いてしまう僕がいた。
だからこそ、僕は幸風さんの指摘にすぐ謝ってしまったのだ。
早速情けない様相を見せてしまった僕に、梅鉢さんが助け舟を出してくれた。
「駄目よ、譲司君をからかっちゃ」
「あはは……メンゴメンゴ。大丈夫だよ、あたし全然怒ってないし、気にしてないから♪」
「そ、そうか……良かった……です……」
何も気にしていないのを知って一安心した僕であったが、今度は幸風さんの方が僕の顔をじっと見つめ始めた。
一体どうしたのか、という緊張と、梅鉢さんに負けず劣らず綺麗で整った顔つきに見つめられる事への困惑で、あっという間に僕の顔は真っ赤になってしまった。
「うーん……それにしても、あの彩華の『リア友』かぁ……」
「ちょ、ちょっと、サクラ、譲司君を見つめ過ぎよ」
「いやぁ、だって興味深いじゃん?彩華がめっちゃ嬉しそうに語ってたし♪」
「そ、それは……そうだけど……」
「あ、あの……」
何やら進み始めた2人の会話の内容がイマイチ掴めず、何を語り合っているのか尋ねようとした時、幸風さんは何度か頷いた後、僕の事をこう評価した。
なかなか可愛い顔をしている、まるで彩華=梅鉢さんの『弟』のような存在だ、と。
「お、弟!?」
「え、ぼ、僕が……!?」
確かに僕は、普段から実際の年齢よりも若く見られる事が多いし、顔つきもそこまで格好良くない。加えて身長も低めである。
でも、『可愛い』と呼ばれ、しかも梅鉢さんと並ぶと『弟』のようだ、と称されるのは初めてであった。
「え、えーと……う、嬉しいです……」
本当は『格好良い』『素敵な男性』と呼んでほしかったのが本音だけど、様々な人たちとの付き合いも多いであろう陽キャのギャルである幸風さんから見た印象はしっかり受け止めないといけない。折角僕を褒めてくれたのに、ここで嫌がってしまっては贅沢だ、と僕は考え、若干困惑しながらもしっかりお礼を言った。
「譲司君が弟……考えもしなかったわね」
「う、梅鉢さんは僕の事、そう見える……?」
「全然意識しなかったわ。それに、サクラに指摘されても、私はピンとこないわね」
「あれ、そう?まあ、まだ第一印象だし、これから変わるかもしれないから、そこんとこよろしく♪」
「は、はい……」
「全くもう……」
呆れたような口調の梅鉢さんだったけれど、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。
若干マイペースな所が垣間見えるけれど、少なくとも僕たちの趣味を嘲り笑うような人では決してないし、何より僕たちと同じ『鉄道オタク』である。
そんな幸風さんの様子を見ているうち、僕はどうしてもある内容を尋ねたくなってきた。先程図書館で初めて対面した時からずっと気になっていた事だ。
「あ、あの……さ、幸風さん……!」
「ん、どしたの?」
「その……幸風さんって……ブルートレインが大好きなんですか……?」
その言葉を聞いた途端、幸風さんの表情が一変した。
「おー、もしかしてブルートレインの事に興味あるの!?」
「あ、は、はい……広く浅くって感じですが……」
「いやぁ、それでも嬉しい!あたし、昔からブルートレインがめっちゃすきな鉄オタでさー!」
そして、幸風さんは興奮したようにブルートレインに関する膨大な知識を次々に披露し始めた。
バッジやアクセサリーのデザインの基となったヘッドマークを装着していた様々なブルートレインの名前、車両、経路、歴史。
日本各地でブルートレインを牽引していた様々な機関車の形式名。
そして、ブルートレインに欠かせない乗務員さんの様々な仕事っぷり。
「それでね、それでね……!」
「あ、は、はい……」
「ちょ、ちょっと、サクラ、落ち着いて。完全に譲司君が圧倒されてるじゃない」
「……あ……いやぁ、つい……ご容赦ご容赦♪」
梅鉢さんが途中で止めなければ、幸風さんによるブルートレインの『特別講義』がノンストップで続行するところだった。
久しぶりに新たな鉄道オタク仲間に巡り会えたことが嬉しくてつい勢いに乗ってしまった、と釈明する幸風さんへ、僕は正直に、本当に正直に、気にしていないという旨を伝えた。
「だ、大丈夫です……さ、最初に会った時の梅鉢さんもそういう感じでしたから……」
「え?」
「あっ……!」
その瞬間、梅鉢さんが顔を真っ赤にして困惑する表情を僕は初めて目にした。
「へ~、梅鉢さ~ん、随分気動車愛をたっぷりと語りまくったんだ~♪」
「え、い、いや……そ、そうよ!私だって気動車大好きなんだから!サクラのブルートレイン愛にも負けないんだから!」
「いやいや、あたしのブルトレ好きも彩華には負けてないよ~♪」
「むー……!」
気づけば互いの得意分野を張り合い始めた2人を、僕は何とか止めようとした。
つい余計な事を口走ってしまったせいで、梅鉢さんがてんてこ舞いの状況になってしまった事を慌てて謝罪した僕は、逆に梅鉢さんたちにその気遣いを謝られてしまった。
別に自分たちは喧嘩している訳ではなく、単に互いの『好き』をぶつけ合っているだけだ、とこの状況を説明しながら。
「す、『好き』……?」
「そうよ。私は気動車が大好きだけど、サクラはブルートレインがとっても好き。だから……ね?」
「そ、時々こうやって張り合っちゃうことがあるって事。だから気にしなくても大丈夫だよ、あたしたちずっと鉄オタ仲間、『
「ねー。勿論、今日から譲司君も私たちの大切な仲間よ」
「ぼ、僕も……仲間……!」
そう聞いた僕の心に、嬉しさや安心感、そして高揚感が沸き上がった。
ずっと互いの鉄道趣味を共有していた『梅鉢彩華』さんに加えて、『幸風サクラ』さんという、新しい友達と出会い、あっという間に仲良くなることが出来たのだから。
そして、
その事が少しだけ気になった時、大きな音が一斉に響いた。この場に集まった、僕を含めた3人の鉄道オタクが空腹を訴える音色だ。
気づけば時計の針は正午を過ぎており、お昼ご飯には丁度良いタイミングになっていた。
どこかへ食事に行こうか、と提案した幸風さんに、梅鉢さんはとっておきの場所がある、と教えた。それは、僕にとっても馴染み深く、その味を知り尽くしている場所だった。
「いいね!あたし、前からずっと寄ってみたかったんだ♪」
「じゃ、譲司君もそれで良い?」
「う、うん……!み、みんなで行こう……!」
そして、僕たち3人はお腹を満たすため、図書館や文化センターに併設されたレストランへと直行した……。
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