第22話 村
ミッションの説明を受け終わると、受付の横を通ってギルド出発エリアへと移動した。
ここは、左右に扉がありその扉から各地区のギルド到着エリアへと転移する。
今回派遣される区は上弦区の外れにある村のため、扉の上に上弦の月が描かれた扉の前まで移動した。
今回のミッションは「魔物による夜中に起こる殺人事件」の解決だ。
詳しいことは村人に聞くらしいが、どうやらここ最近その村では皆が寝静まり、朝目が覚めると村の中心に村人の死体が転がっているらしい。
その村人の死体から強い魔力が検知されたため魔物の仕業と判断、ミッションが依頼された。
元凶となっている魔物の討伐が今回の依頼だ。
それと、今回は私とカポックの昇級ミッションのため、ハスは監督役として派遣されている。
つまり、今回のミッションではハスは手を出さない規約だ。
その代わり、2人が危ない状況になれば2人を助ける役目もある。
それを聞いてからハスは口を尖らせて制服のローブのポケットに手を突っ込んでいる。
彼はどちらかといえば、自分の力を誇示するのが好きな方だ。
「アザレア様、ハス様、カポック様ですね」
廊下の一番奥の扉からギルド職員が身に着ける紫のローブを纏ったギルド職員が出てくる。
「はい、そうです」
私の答えに笑顔を返す職員は私たちの目の前までくると、上弦の月扉を開けた。
「では、中にお入りください」
職員の手招きに沿って私たちは中へ入る。簡素で何もない真っ黒な部屋は3人入ると少し狭い。
「神のご加護がありますように!」
お見送りの挨拶と共に扉を閉める。
数秒後、床に真っ白に光る魔法陣が浮かび上がった。
そして、辺り全体が白い光に包まれると一瞬の浮遊感の後に光は消えていた。
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先程いた部屋とあまり変わらないように見えるが、扉の位置が背後にあったものが前方にある。
「着いたようね」
私が歩き出すとそれに合わせて2人も歩みを進める。
思い扉をゆっくり開くと、そこには中央区では目にしない廃れた町並みが広がっていた。
コンクリートの建物は所々壊れていて、外に出ている者は睨みつけるようにこちらを見ている。
上弦区は貧困層の町だとは聞いていたけれど、ここまで何も整備されていないとは思わなかった。
1度外に出るのを躊躇うが、私は1歩ずつ足を進める。
息を吸うとどこか埃っぽい。町としてきちんと機能しているのだろうか。
「例の村はここからさらに歩くみたいだね」
カポックはギルドから手渡された地図を手にしている。
ミッションの村はこの町を北方向に1時間程進むらしい。
「俺先に行ってていいか?」
これくらいの距離ならハスの転移魔法でも移動できる。
が、彼は早速己の任を忘れているようだ。
「ダメに決まってるでしょ?私たちをきちんと見張ってないと」
「俺が見てなくてもなんとかなるだろ」
ハスの言葉に私とカポックは目を見合わせる。
友達として信頼されているとは思っていたが、魔法族としてもそうだとは思わなかったからだ。
私とカポックの様子にハスは片眉を下げて怪訝な顔をしている。
「あ?なんだよ」
「いや、別に」
カポックがふふっと笑って歩き出すので私もそれについていく。
ハスがおい!と叫びながら私たちの間に入った。
「とにかく、あなたには私たちの昇級が懸かってるのだから、きちんとお仕事してちょうだいね」
「わーったよ」
めんどくさそうに息を吐くハスの背中を私は思いっきり叩いた。
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地図の通りに歩いていくとミッションの村が見えてきた。
家は10数戸がぽつんぽつんと建っている。
毎日のように死者が出ると、いずれ村人全員居なくなるのではと感じてしまうほどだ。
私たちは村一番の大きな家へと向かう。
そこに、今回のミッションの依頼者である村長が居るらしい。
私たち3人が歩くと、村人たちは怪訝そうな顔でこちらをチラチラと見ている。
その視線に私は肩をすぼめた。
「あまり歓迎されていないようね」
「中央区から離れれば離れるほど、魔法は魔物が使うものだという認識が強いからね。同じ魔法を使う魔法族のこともあまりよく思っていない人が多いんだ」
カポックが苦笑いを浮かべながら解説してくれる。
噂には聞いていたけれど、こうして身をもって体験すると少々複雑な気持ちだ。
「あ?魔物も自分で倒せない癖に偉そうだな」
ハスは睨んでくる村人を威嚇し始めるので、カポックがそれを宥める。
ハスの気持ちも分からないでもないが。
「どう思われようと私たちは私たちの使命を全うするだけよ」
感謝されようがされまいが、私たちのやることは変わらない。
私の言葉にハスは威嚇を止めて歩き出した。
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村長の家の前に着き、扉をノックした。
すると、中から小綺麗な年配の女性が笑顔で出てくる。
「あなたたちが魔法省の?」
「はい、魔法省から派遣されました、アザレアと申します」
そして、後ろに立っているカポックとハスに手を向ける。
「こちら、同じくカポックとハスです」
カポックは恭しく、ハスは少し乱雑に頭を下げる。
やろうと思えば丁寧にできるハスはあえてテキトーに頭を下げている。
「まぁ、わざわざありがとうございます。立ち話もなんですし、中へどうぞ」
「お邪魔します」
村長の家へと足を踏み入れる。
綺麗に整頓されていながらもところどころ花々が飾ってあり、少し可愛らしい印象を受ける。
きっと先程の女性が管理しているのだろう。村長の奥様だろうか。
キッチン前には4人掛けのテーブルがある。白樺の色が綺麗だ。
そこに初老の男性がぽつりと座っている。
にこにこと笑みを浮かべているが、目の隈がひどくここ数日の心労が伺える。
「どうぞ、お座りください」
覇気のない声に私たちは一瞬目を合わせた。私とカポックが席に着くと、ハスはその後ろに立つ。
「ささ、ハス様もどうぞ」
男性が隣の椅子へと手招くが、ハスは手で制した。
「あぁ、いやお構いなく。俺付き添いなので」
ハスの敬語に私の肩は一瞬揺れるが、なんとか顔だけは取り繕った。
隣のカポックも咳払いをしていることから私と同じ心情だったのだろう。
男性は大きく息を吸うとぽつりぽつりと話し始めた。
「改めまして、私が依頼人のアーベック・シュワイツです。この村の村長をしております」
「改めまして、アザレア・ロードクロサイトです。こちらがカポック・チャロアイト、そして後ろにいるのがハス・タンザナイトです」
私が一気に紹介すると、2人は各々頭を下げる。
「今回の件について、改めて確認させてください。寝静まった後死人が出ると伺っているのですが、それはお間違いないでしょうか?」
夜に死人が出るということは今日の夜にも死体が上がる可能性がある。
夜が来る前にこのミッションを終わらせなければならないため、私は急いで確認をとる。
「はい、合っています。それと、1つ気になることが……」
村長が口を籠らせ、カポックと目が合うがすぐに村長に視線を戻した。
「なんでしょうか?些細なことでも構いませんので、なんでも仰ってください」
「ありがとうございます。……実は、村人が死ぬ日の夜、村人全員が同じ夢を見るんです」
「夢?ですか?」
そんな話ギルドからは聞いていないが、恐らく依頼を出した後に発覚したことなのだろうと私は耳を傾ける。
「はい。しかも、次の日の朝亡くなる村人の夢なのです。ある者は夢の中で暴力を受け、ある者は犯されと、あまり良いものではありません」
3人の間に一筋の緊張が走る。
「恐らく、それは実際魔物が村人に行っていることが夢に反映されているのだと思います。……カポックはどう思う?」
「うん、僕もそう感じた。そして、人の夢に干渉できる魔物となると……」
「かなり厄介ね」
人の夢に干渉できる魔物というのはそれほど魔力が強く、そして狡猾だ。
もちろん、下級の魔物にそんな狡猾さはないため、等級も低く見積もっても2級、下手すれば、1級案件だ。
そして、さらに厄介なのは……。
「しかも、相手が魔物ではなく、魔族の可能性すらある」
魔族とは魔物と人間の血が入り交じった魔物だ。
限りなく人間の見た目に近く、人の言葉も話せる。
神話によると、魔族は魔王と魔法族との間に生まれたらしい。ちなみに、信憑性は定かではない。
現在では存在しないが、魔物側についた魔法族のことも魔族と呼ぶそうだ。
これに関しても、半分神話のようなものだが。
ともかく、魔族に関しては不可解な点も多い。
なぜなら、魔族の数自体がかなり少ないからだ。ちなみに、私は今まで魔族に遭遇したことはない。
しかし、それもそのはずで、魔族の等級は低くて2級。
3級までのミッションには魔族は登録されていない。
カポックの言う通り、人の夢を操る狡猾さを持っているのは魔族の可能性が高い。
もちろん、魔物の可能性も否定できないが。
ここまでそのターゲットの特徴が夢を操る以外ないため、村長の話から質問することにした。
「夢の中の魔物はどのような姿をしていましたか?」
見た目の変化があればと一縷の望みをかける。
「それが、日によってバラバラなのです。ある時は獣の、またある時は人間のような姿をしています」
「なるほど。夢の中では自分の姿を自由に変えられられるってことかしら」
「まぁ、そうだろうね。不思議な話ではない」
「そうね」
つまり、相手がどんな見た目かのヒントは何一つ分からないということだ。
せめて、相手の魔力が分かればそれを探知できるだが。
恐らく、遺体は既に魔法省へと送られているだろうから魔力を確認することもできない。……ここらで詰みか。
「わかりました。村長さん、お話ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、助かります。どうか、この村をよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
私は目でカポックとハスに家を出ようと訴え、私たち3人は村長の家を後にした。
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私たちは村にあるベンチに3人並んで座った。
「本当は夜がくるまでに片付けたかったのだけど」
私は重い口を開いた。
夜になれば被害が出てしまうかもしれないため、それまでに魔物を倒したかったのだが、ここまで手がかりがないと探しようがない。
夜に確実に出てくるのであれば、それまで待機しておくのも手かと無理矢理納得させた。
夢を操るような魔物はきっと魔力が相当強い。
そうなると、近くにいるだけでその魔力は感知できるだろう。
「そうだね。まぁ、夜になって一気に叩けばいいさ」
口に出していないのに考えていることが伝わるのは嬉しい。
まぁ、この状況だと誰もが考えることだろうが。
「じゃあ、それまで町戻らね?」
ミッションのことは一切口に出さないようにしているハスが口を開いたと思えば休憩の提案だった。
「何があるか分からないからこの村には待機していないと。後、周囲を軽く見回って地形の把握ね」
「真面目かよ」
「昇級が懸かってるのだから丁寧に遂行しないといけないでしょう?」
「そこ?」
というのは冗談だが、どんな敵がくるか分からないため用心しておくに越したことはない。
「少し休憩したら周囲の見回りするわよ」
「分かった」
「だりぃ〜」
カポックはニコリとハスは口を尖らせる。
私は目を瞑り、体の中に流れる魔力を感じることにした。
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