第21話 ギルド職員の悶々

今日も今日とて変わらない日常。

ミッションを受けにきた魔法族にミッションを紹介したり、魔法省指定のミッションの説明をしたり……。

ギルドの受付職員は毎日同じことの繰り返しだ。

それでも、ミッションに送り出した魔法族が怪我をして帰ってきたり、はたまた帰ってこなかったりすると多少心は痛むが。

それでも、いちいち気にしていたら仕事もままならないため、そういったことはあまり考えないようにしている。


ギルド内には自分に合うミッションが出るのを待っている者や仲間と話している者、時間指定があるミッションまで暇を潰している者など多くの魔法族でごった返す。

ギルドと行っても、ムーントピア王国におけるギルドは魔法族の憩いの場ともなっているため、ちょっとしたカフェや仮眠室なども併設している。

こんなガヤガヤしていても昼にはほとんどの魔法族が出払い、今と違って閑散としているのが少し寂しい。



いつも通り黙々と作業をしていると、さらに騒がしくなるギルド内。

揉め事だったら嫌だなと思いながら、ザワついてる方へ視線を向けると、そこには美男美女の3人組がギルドに入ってきていた。

女の子を挟んでいるでかい男の子たち。

魔法高等学校の制服がピカピカなことから新入生ということが伺える。

そういえば、学校は今日から長期休みだっけ。

休みの初日にミッションを受注しにくるとは真面目だななんて思っていたが、その3人をよく見ると全員見知った顔だった。


1人はアザレア・ロードクロサイト。

ロードクロサイト家の中でもツヴァイの才能やその容姿端麗さから魔法族の中でも国民人気が高い。

今もギルドに居る男連中はアザレア様を見て鼻の穴を膨らませている。


もう1人はハス・タンザナイト。

魔法族唯一のフィーアの持ち主でだけでなく、転移魔法も扱える。

さらに、顔もスタイルも良いことから女子人気が圧倒的に高い。

男の俺ですらも綺麗な顔だなと思わされるのはよっぽどだろう。


最後の1人はカポック・チャロアイト。

魔法族の希少な他者回復魔法の持ち主。

他にも他者回復ができるヒーラーはいることにはいるが、彼の才はその中でもずば抜けており、怪我も体力も魔力も同時に回復できる魔法族はカポックより他にはいない。

国民にはあまり知られていないが、ギルドからも何回か回復の依頼を出していることから、職員の間では有名だ。

おまけに人当たりも良く、ハス様とはタイプの違う美形で、ギルド職員女子はカポックが来るといつも目をハートにする。


そんな3人が一緒に歩いていたら嫌でも目立つ。

きっと騒がしい原因はあの3人だろう。

デカい2人に囲まれたアザレア様はより小さく見えて可愛さが増している。


俺はその3人を見て思い当たる節があり、今日の魔法省指定のミッション一覧を確認する。

9時30分のミッションの同行者欄にその3人の名前があった。

ミッションクラスは2級で、アザレア様とカポックの昇級ミッションともなっている。


現在の時刻は9時50分。

時刻的には遅刻であるがこの3人以外に同行者はいない上、今は少し手が空いてるため目を瞑ろう。


その3人は何やら話しながらこちらの受付へ歩いてきている。俺は最大限耳を済ませた。


「大遅刻ね」


アザレア様はため息を吐きながら眉毛を垂らしている。子犬みたいで可愛い。


「大ってほどじゃねぇだろ、プチ遅刻だな」


ハス様は頭の後ろで手を組みながらのんびり歩いている。


「遅刻は遅刻でしょ」


頬を膨らませるアザレア様。

どうやら、遅刻したことに罪悪感を抱いてるらしい。


「そもそも!」


アザレア様は歩きながらカポックを振り向いて立ち止まった。


「あなたがまた寝るからこうなってるのよ!」


カポックに指をさして、もう片方の手は腰に手を当てている。


「ごめんね?」


相変わらず涼しい顔をしているカポックはまるで反省が見えない。


「ささ、ただでさえ遅れているんだから止まらないよ」


カポックはアザレア様の両肩を掴むとぐるりと回転させる。

アザレア様の両頬はぷくと膨らんでいた。


再びこちらへ歩み始める3人。


「つーか、お前も寝こけてたじゃねぇか」


「それはっ……」


ハス様の発言にアザレア様は顔を真っ赤にする。


「カポックがちょうど良い暖かさだったというか……」


んん?アザレア様の言葉につい声に出そうになった。

なんだ?どういう状況だったんだ?


カポックは細い瞳を大きくした後、ふふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「僕が暖かくてごめんね?」


「本当に謝る気がないわね、カポックも」


アザレア様は顔を赤くしながらも鋭い瞳をカポックに向ける。


「むしろ、眠いのに起きて来ているだけでも感謝して欲しいくらいだね」


「だから、昨日早く寝た方が良いって言ったでしょ?無視して大盛り上がりしてたのは2人よ」


「あんな白熱したとこで止められるわけねぇだろ」


んんん???


軽い言い争いをしている3人の言葉から、恐らく3人は夜遅くまで一緒に居た?下手したら、朝まで一緒に居た可能性が高い。

この3人、どういう関係なんだ?


頭の中でぐるぐる考えていたら、いつの間にか3人は目の前に居た。

先程とは違い、アザレア様のキュートな笑顔に思わず見惚れる。


「すみません、9時30分からミッションを受ける予定のアザレア・ロードクロサイト、ハス・タンザナイト、カポック・チャロアイトです」


その見た目から発せられる声も鈴の音のように美しい。

先程の言い争っている時とは少し違う。


何も発しない俺を見て首を傾げるアザレア様に意識を現実に戻される。

そうだ、俺はギルドの受付。仕事をしなければ。


「お待ちしておりました。では、本日のミッションについてご説明します」


俺はとにかくすべてを忘れてミッションの説明に従事した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る