第4節 青の休み

第19話 長期休みのスケジュール

長期休み前、私たち3人はニーナ先生に呼び出され、放課の教室に残っていた。

教室から生徒たちが出ていった後、ハスとカポックは私の隣にやってきた。


「センセー!俺たちに用事ってなにー?」


「コラ、ハス。先生には敬語を使いなさい」


「だって、俺より弱いじゃん。センセーって呼んでるだけ感謝して欲しいね」


「あんた、本当にちょっと1回黙って」


私の言葉にハスは不貞腐れたように口を噤む。

ニーナ先生の額には若干の血管が浮いているが、カポックが矢継ぎ早に話しかける。


「それで、ニーナ先生。本題はなんですか?」


カポックの丁寧な物言いに笑顔になるニーナ先生。

言い方悪いけれど、この人も意外と単純なんだよなぁ。


「もうすぐ長期休みでしょ?3人には魔法省からミッション依頼がきていてね」


そう言いながら私たちの席の前に立つと、持っている紙を私たちに配る。


もらった紙に目を通すと、タイトルには【長期休みのミッションスケジュール アザレア・ロードクロサイト】と書かれてある。


その下には、日付とミッションの内容が事細かく記してある。

時間、場所、何級相当か、誰と行くか。

そして、そのミッションは長期休みの間ほとんどいっぱいになり、休みが片手に収まるほどしかない。


「は?まさかこれ、全部受けなきゃならないワケ?」


最初に声に出したのはハスだった。

どうやら、ハスも私と似たようなスケジュールだったのだろう。

これは、長期休みという名のミッション受注期間である。

学校がある時の方がまだ休みがある気がする。


「そう。休みが少ないのは申し訳ないけど」


「……にしても、かなり詰まってますね」


カポックの苦笑いに全員かなり忙しいことが分かる。


「みんなも知ってるとは思うけど、2級以上の魔法族はかなり少ないの。増えても、その先から魔物や魔族に殺されていく。正直、ジリ貧なのよ」


そう、現存する魔法族はほとんどが3級以下。

2級からは一気に人が厳選され、そこに認定された魔法族は日々忙しなく働いている。

さらに、その1つ1つのミッションの難易度も高いことから常に人手不足なのだ。


「でも、私とカポックは3級です。このスケジュールを見るとほとんどが2級案件ですが?」


そう、軽く見た感じ3級のミッションは最初の2日のみでそれ以降は2級のミッションばかり。

そこには、同行者としてハスやカポックの名前もある。

等級としては格上だ。


「2人は2級の実力があると魔法省が判断したの。だから、最初の内に2級に上げてミッションをこなして欲しいらしいわ」


2級以上の魔法族は余程切羽詰まっている状況らしいことがニーナ先生の話から推測できる。

にしても、無茶苦茶だが。


「アザレアはともかく僕は戦闘向きではないですし、3級が妥当だと思うのですが」


カポックの言葉にニーナ先生は首を竦める。


「恐らく、ハスくんやアザレアさんと一緒のミッションに行かせたいんだと思う。カポックくんのスケジュールには、必ずどちらかか2人が同行しているはずよ」


ミッションは等級が同じ、もしくは同行者が1つ上の等級の者としか組めない。

ハスや私が今後1級に上がるかもしれないことを考えるとカポックを2級に上げておくことは必須なのだろう。


「……なるほど」


カポックは納得のいったようないってないような声色で返事をした。


「他に質問はある?」


自然と3人で顔を見合わせて、目で「ないよね」と会話をして、ニーナ先生へ向き直る。


「もうありません」


代表で私がそう言うとニーナ先生は少し申し訳なさそうな顔をした。


「そっか。ごめんね、でも3人には魔法族の未来が懸かってるから」


魔法族の未来……なんて、随分と重いもの背負わされたなと肩を竦めた。




私たちはなんとなくそのままハスの部屋に集まった。

私、ハス、カポックの順にソファに座ってそれぞれスケジュール表を見る。


「これじゃ、実家には帰れないかな」


カポックがため息を吐く。

そう、長期休みは皆寮から実家に帰って過ごす人が多い。

私は元から帰るつもりはなかったが、カポックは当たり前に実家に帰りたいだろう。


「何日くらいあればお家でゆっくりできるの?」


「う〜ん、移動も含めたら3泊4日かな」


「なるほど」


私はテーブルにスケジュール表を置く。

2人にも同じように置くように促した。


3人のスケジュール表を見比べる。

ミッションの休みの日は、誰かが2人でミッションに行っていることがほとんどで3人とも休みの日は1日ある。

カポックが休みの日の前後にカポックのミッションを私とハスが受け持てばカポックは休めるのではないだろうか。

ただ、ハスも実家に帰る予定があった可能性がある。

それをハスに聞いてから判断しよう。


「ハスは実家に帰る予定あった?」


「いや、元から帰るつもりねぇな」


「そうよね」


魔法族四天王として育てられた私たちは、ミッションを受けることが当たり前と育てられてきた。

そのため、元々スケジュールを出されなくてもミッションには赴くつもりだった。

まぁ、私はそんな高尚な理由もなく、実家に帰るつもりはなかったが。


「じゃあ、カポックの休みの前後私たちでカポックのミッションを引き受けるのはどう?」


私の言葉が意外なのか、目を丸くするカポック。


「え、普通にヤだけど」


「ちょっとハスは黙ってて」


ハスの不満そうな声に私は間髪入れずに突っ込む。

カポックはハハと乾いた笑いを浮かべる。


「ありがたいけど、ほら……ハスもこう言ってるし」


私がハスをきっと睨むとハスは口を尖らせる。


「だってさ、少しでも長くお前らと一緒に居たいし」


ハスの意外な発言に私とカポックは思わずハスを見て固まる。


そんな私たちに目を向けると、ハスは顔を真っ赤にして口を開く。


「な、なんだよ!」


その様子があまりにも可愛らしく私とカポックの頬が思いっきり緩む。

そして、カポックはハスの肩を抱いて、私はハスの頭を撫でる。


「よしよし、ハスは可愛いね」


「はぁ!?可愛くねぇし!」


「よしよし、ハスは愛おしいね」


「愛おしいってなんだよ!?」


口では文句を言いながら、カポックや私を払いのけることはしない。

ハスってなんか小さい男の子みたいだ。

弟が居たらこんな感じなのだろう。

ちょっと嫌だけど。


「可愛いハスに免じて、今回の長期休みは実家に帰るのは辞めよう」


カポックの柔らかい笑みを見て、私も野暮なことをしたなと察した。


「じゃあさ!長期休みの間、俺の部屋にずっと居ろよ!どうせ、他の奴らは居ないんだろ?」


「そうだね。じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」


いえーいと言いながらウキウキするハスが本当に5歳児くらいに見えてきた。

休みがほとんど無く、正直ちょっと嫌だなと思っていたが、少しだけ長期休みが楽しみになった。

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