第18話 体術訓練

───強化合宿2日目朝───


朝の準備を終え、集合場所である体育館ではぞろぞろと人が集まりつつあった。


集合時間まであと10分。


私は、ニーナ先生と共に今日のスケジュールを確認している。



といっても、今日は体育館にて体術訓練を行ったら解散となる。


魔法族は体術は必要ないだろうと思う人も少なくないが、クラスが上がる魔物ほど知性が働いて魔法族の弱点は近距離攻撃だと理解し、間合いを詰めてくるものもいる。


だからこそ、3級以上の魔法族になるためには魔力操作だけでなく、体術も必要となってくるのだ。


体術も魔法族にとって必要な要素だ。


─無論、私は体術も心得ているわ。


ただし、体術が得意な魔法族は正直多くは無い。


たまたま、私の周りにいるハスやカポックは体術もできるし、なんならカポックに関しては体術は大得意だが、できないのが普通である。


授業のカリキュラムにも組み込まれているが、特に女の子は苦手な者が多いようだ。


私もそうだが筋肉が育つにも限界があるため、そういう人は魔力で体の1部を強化するという手段も必要となってくる。


魔法族にとって体術は言葉以上に難易度が高いのだ。



訓練は基本的には男女に分かれて行う。


ニーナ先生は基本的に女の子側に付きっきりになりそうだ。


私はその補助と場合によっては男の子側も見ることになる。


─だけれど……。


正直私は男子側はカポックに任せるのが1番良いかなと勝手に思っている。


人に教えるのも上手だろうし、カポックの言うことならとアドバイスを素直に聞き入れる者も多いだろう。




体術の訓練が始まった。


男子は対戦形式で、女子は護身術を習う。


私はニーナ先生がかける技の相手役をこなす。


そして、技の指導が始まった。


護身術は力が無くても相手を倒すことができる。非力な女子でも使えるものだ。


女子は極めて平和的に技を練習していく。

この体術訓練はほとんど余興のようなもので、和気藹々とした雰囲気だ。


ふと男子側が視界に入ると、女子とは打って変わって殺伐としていた。


どうやら、カポックが相手をしているようだが、あの体術ゴリラに男子一同はコテンパンにさているようだ。


何人かは動けず倒れているのが見て取れた。


─なるほど、あのゴリラは指導どころか自らが楽しむことに集中しているようね。


よく考えたら、あのハスともよく喧嘩しているわけだし、一見大人びているが中身はガキだ。


しかも、カポックが得意な体術。


実戦形式と聞けば手を抜くはずがなかった。


「まぁ、楽しそうだしいっか」


私の言葉はみんなの声に掻き消される。

私は再び指導に集中した。




▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

しばらくすると、何やら男子側が騒がしい。


よく見ると、ほとんどの男子生徒が倒れており、その中心ではハスとカポックが殴りあっていた。


でも、いつもの喧嘩のように睨み合っているのではなく、2人のどこか楽しそうな表情に私は自然と頬が緩む。


男同士にしか生まれないああいう関係に少し羨ましいと思った。


─まぁ、周りに迷惑もかかっていないし大丈夫ね。


さすがにこちら側になにか事が及ぶようなことがあれば止める必要があるとは思うが、今のところは問題ない。


とある子に呼ばれて指導をしてしばらく、ピアノがちょこちょこと私の方へ歩いてきた。


「ア、アザレア様、アレちょっとやばくないですかっ?」


ピアノのそんな声に改めて2人を見ると、先程よりヒートアップしてきて表情も固くなってきている。


しかも、なんだか微力ながら魔力を拳や足先に乗せてやり合い始めていた。


2人はもう全身傷だらけである。


このままだと魔力を使い始めないとも限らないため、ため息を吐いた。


─周りが見えていないわね、アレは。


震えるピアノの肩に一旦手を置くと2人の喧嘩の渦へ近づく。


「2人とも!本気出しすぎ!」


腰に手を当て声をかけるが、2人は横目でちらりと私の方を見ながら「あぁ!?」と睨む。


「アザレア、邪魔すんじゃねぇ!」


「ここまで来たら、どちらかが倒れるまで止められないよ」


「上等だコラ!」


そう言いながら喧嘩を始める2人。

私は再びため息を吐いて女子側を振り返る。


「放っておくか実力行使に出るか……どちらにする?」


ピアノが震えながら「じ、実力行使で……」と言うので私は手でOKマークを作った。


改めて2人に向き直ると、相も変わらず殴りあっている2人。


2人が互いの手を握り、膠着状態になった瞬間───


私は2人に素早く近寄り、2人の頭を掴んだ。


「はぁ!?」


「アザレア?」


2人がこちらに気を取られた隙に私は2人の頭を思いっきりぶつける。


「「いって!? / いたっ!?」」


おでこを抑え、床にしゃがみ込む巨体が2つ。

私は腕を組み、それを見下ろした。


「今は体術の訓練の時間よ?」


私の言葉に2人の顔は青ざめ、素早く正座を組む。


「ハス、カポック……今はあなたたちの喧嘩の時間じゃないの?分かる?」


「「だってカポックが/ハスが」」


お互いがお互いを指さす姿に私は2人の言い訳が終わる前に口を開く。


「だってじゃありません!大体、あなたたちはそうやってすぐ喧嘩してっ!」


2人に対する鬱憤が溜まり、2人に説教を始める私。




それを遠巻きに見ていた女子ズはアザレアと彼らの関係を「親子みたいだ」と噂していた。


こうして、合宿は無事(?)終了した。

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