第16話 モテる3人

───in 女子部屋───


すべての行事が終わり、あとは寝るだけとなった。


教室に布団を敷いて寝転がっている女の子たちは、何故か全員で顔を突き合わせ、トークに花を咲かせている。


私は、よくわからないため黙って話を聞いていた。


「ハス様って本当に顔が良いよね!」


「そうそう!あの顔で高身長なのもフィーアなのもズルい!」


「えーでも、口悪くない?」


「そこもいいんじゃんね!」


「私はカポックさんの方がいいけどなー」


「私も!優しくてあの柔らかな笑みがいいわよねー」


「あのハマったらいけないって本能的に感じさせるのがー……」


女子たちは完全にハスとカポックの話に夢中である。


私と見えている景色が違いすぎて私は黙るしかない。


顔が良いってだけで得しているな以外の感想が見当たらないからだ。


─まぁ、2人とも悪い人ではないけれど。


私は眠気が襲ってきて舟を漕ぐ。


「アザレア様っ」


自分を呼ぶ声が聞こえ、私は目を開く。


声のした方へ顔を向けるとピアノの笑顔が見えた。


「どうしたの?」


「アザレア様は、ハス様とカポックさんのどちらかとお付き合いされているんですか⁉」


ピアノの質問に私は目を開く。


視線を感じると、女子全員が私に視線を向けている。


私は、ハハッと笑った。


「まさか。つきあってないわよ」


─そもそも私は恋はもうしないと決めたのだから。


その言葉が喉に引っかかって出てこなかった。


私の言葉に「良かった~」と安心する女子たち。


「じゃあ、私がハス様に告白してもいいんですか?」


私の正面に寝ている女の子が私に話しかける。


私は首を傾げた。


「それは私に確認をとることではないと思うわ。思うままに行動した方がいいわよ」


「あ、ありがとうございます!」


「それに……」


思わず口に出た言葉で私はハッとした。


口を手で覆うが、皆が私の次の言葉を待っているため諦めて言葉を紡いだ。


「魔法族はいつ死んでもおかしくない。日々後悔しないように生きたほうが良いわ」


私はなるべく重くならないように笑顔でいる。


一瞬、空気が重くなるが、それはピアノの一声で打ち消された。


「じゃあ、皆さんも想いはちゃんと伝えたほうがいいですね!」


ピアノに賛同し、再びコイバナを始める女子たち。


恐らく、この年代ではコイバナをするのが当たり前なのだろう。


「アザレア様は、お2人のこと好きですか?」


各々話し始めた雑踏の中、ピアノが私にしか聞こえない声で話しかけてくる。


私は一瞬カポックの顔が浮かんだが、頭を振ってすぐにそれを搔き消した。


「好きよ。いい友達としてね」


私の答えが不満なのかピアノは可愛く頬を膨らませる。


私はピアノの頬を指で触ると柔らかくてふわふわだった。


そして、ふとピアノに対して疑問が浮かぶ。


「そんなピアノこそ、好きな人はいないの?」


ピアノは急に顔をキョロキョロしだして、枕に顔を突っ伏した。


枕からはみ出ている耳は少し赤く染まっている。


「い、いません!」


明らかに不審な挙動がピアノに好きな人がいることを裏付けた。


恋をする女の子はこんなにも可愛いのか。


「へぇ~?誰が好きなの?」


「だ、だから、いませんって!」


必死に否定するピアノに私はふふっと笑う。


「……本当は?」


私がじっとピアノを見つめると、ピアノは一瞬目を逸らした後、私の耳に顔を近づける。


「……ヘンゲルくんです」


「あぁ、あの」


ヘンゲル・ミシュタイン、魔力操作課題のときいち早くコツを掴んでいた男の子だ。


元気っ子な印象しかないが、ピアノはああいうタイプが好きなのだろう。


「えっ⁉知ってるんですか?」


「課題の時にちょっとしゃべっただけよ」


「そうなんですか⁉ヘンゲルくん、誰にでも分け隔てなくて……」


ピアノのヘンゲル話が始まり、私は耳を傾ける。


楽しそうに話すピアノに私は口角があがった。





▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

───in 男子部屋───


男子部屋でも例にもれず、コイバナ……という名の下世話な話で盛り上がっていた。


「ピアノちゃんってちっちゃくて可愛いよなぁ~」


「分かるぅ~!こう、愛でる対象だよなぁ~」


「いや、でも別に抱きたいとは思わないわ」


「抱くなら……アザレア様一択だろ」


「あの高飛車な感じで、自分だけ甘えられたらギャップでやばい」


「それな!地味にスタイルも良いし、俺毎晩おかずにしてるわ」


「いや、それはさすがにキモい」


アザレアの話で盛り上がる男子たちを片目にハスは肘をついて、カポックは胡散臭い笑顔で話を聞いていた。


「てか、ハス様にずっと聞きたいことあったんですけど」


「なに……?」


猥談で盛り上がる男子は、ハスの少し不機嫌な様子に気づかず話しかける。


「ハス様ってアザレア様を抱いたことあるんですか?」


押し黙ったハスに男子は注目するが、一向にハスは口を開かない。


その代わり、カポックが空気を破った。


「まぁまぁ、みんなその辺に」


カポックの制止にハスに追及するのを止めた男子たちは一見笑顔のカポックに標的を移した。


「じゃあ、カポックはアザレア様のことどう思ってんの?」


男子の質問にカポックは顎に手を当て、「う~ん」と唸った後、さらに口角をあげる。


「彼女は誰にでも優しくて気高くて美しい。でも、照れ屋で素直じゃなくて口が悪くて感情が豊か……そんなところが可愛いなと思ってるかな」


男子たちは思った、カポックから盛大なアザレアマウントを取られたと。


そして、有無を言わせぬカポックの笑顔に黙り込む。


そんな中、動き出したのはヘンゲルだった。


「……ちなみに、ハス様はアザレア様のことどう思ってるんスか?」


「あ?俺?俺は……」


続いてその場の注目がハスに集まる。


ハスは瞳を上方向に動かした。


「ケツがでけぇ女」


ハスの言葉で静まり返った一同だったが、ヘンゲルがハスの肩を抱いた。


「さすがハス様!抱いた女の数が違うッスねぇ~」


「え?あぁ、そう?」


再び下世話な話で盛り上がり始める男子にカポックはただ一人、ため息を吐いていた。

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