第13話 与えられるもの
ピクニックタイムが終わり、今から魔物討伐戦が始まる。
前回のグループワークみたいにアザレア様やカポックさんのような高クラスの魔法族が居ない実戦は、私にとって初めてだ。
杖を持つ手が微かに震える。
「制限時間は3時間、なるべく多くの魔物を倒してください」
ニーナ先生がスタートの合図を出すと他の班の人達は動きだした。
「じゃあ、俺達も行こうか」
班のリーダーである男の子に誘導され、私は震える手を隠し歩き出した。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
森の中に入り、しばらくは静寂の時が流れていた。
「魔物、思ったよりいないね」
いつも一緒に居るレイアちゃんが私に耳打ちする。
「そう、だね……。ちょっと安心したかも」
そう返した途端、近くの木々からカサカサという音が複数聞こえる。
私たちはその場に立ち止まり、杖を構えた。
それを合図にしたかのように小さな魔物が10匹ほど飛び出してくる。
魔力もそこまで感じないことから、およそ6級の魔物だろう。
─だとすると、私と同等クラスだからなんとかなるっ!
班のメンバーが魔物に向かってそれぞれ魔力を放つのを視認し、私も目の前にいる魔物に杖を向けた。
杖に魔力を集中させ、水から氷柱を作り魔物を貫く。
魔物はあっさりと消え、ハートを回収した。
「ふぅ」
魔物を倒すのは魔法高等学校に入学してからが初めてだった。
だからこそ、アザレア様が当たり前のように魔物を倒す姿を見て惚れ惚れしたし、私もいつかアザレア様のようになりたいと密かに目標にしている。
もちろん、まだまだ魔力操作も上手くできないし、魔物を倒すことにも慣れていないけれど、それでももっと強くなって、お金をいっぱい稼いで家族にいい暮らしをしてほしい。
裕福ではない家で育った私でも、魔力があることで魔法高等学校に入学できたし、家族の役に立てる。
─そのために私は、魔法高等学校に入ったんだ!
「キャッ!」
レイアちゃんの悲鳴が聞こえ、意識を現実に戻すとスライム型の魔物がレイアちゃんの足を掴んで宙へ浮かしていた。
「レイアちゃん!」
周りを見ると、私以外の班のみんなも同じようにスライムの魔物に捕らわれており、杖が地面に落ちている。
魔物の大きさからしても4級の魔物。
私よりも遥かにクラスが高い魔物だ。
魔物から出るオーラに落ち着いていた体が震え出す。
でも、今この場で杖を持ち、魔力を使えるのは私しかいない。
私は震える手で杖を魔物に向け、氷柱を作り出す。
が、集中力が切れているのか氷柱は地面にそのまま落ちる。
「あ、え……」
授業でも経験していなかった事態に私は混乱した。
─なんで!?助けなきゃいけないのに、なんで氷柱が前に飛んでくれないのっ!!!
───なんでっ!?なんでっ!!!
私は諦めず氷柱を作るが、作った先から地面に落ちる。
自分で作り出したものが言うことをきかない。
─どうしたらっ!どうしたらいいの!
スライムの手がこちらに向かってくる。
もうダメだと私は思わず目を瞑った。
「ピアノ!」
上空から私を呼ぶ声がする。
空を見上げると、そこにはほうきに乗っているアザレア様が私を見つめていた。
「ピアノなら大丈夫!絶対大丈夫よ!」
アザレア様の透き通った声がすっと体の中を駆け巡る。
先程までの震えが嘘のように止まり、私はスライムに向き直った。
杖を縦に構え、氷の防壁を作る。
スライムがそこに当たり、氷が砕け散ると同時に私は4つの氷柱を作り、班のメンバーを掴んでいる腕を切り落とした。
4人は地面に上手に着地して、それぞれ杖を回収する。
「みんな!一斉に攻撃しよう!」
私の声に全員が魔物に杖を向け、様々な攻撃を繰り出す。
スライムは複数の攻撃を避けきれず、全て受け止め、そしてそのまま消失した。
「やった!」
私は思わずレイアと抱き合う。
レイアも目に涙を浮かべ、私の背中に腕を回した。
「ピアノさん、ありがとう!」
「おかげで助かった!」
班の男の子たちにも口々にお礼を言われ、私は胸が暖かくなった。
と同時にアザレア様にお礼を言うと空を見上げると、アザレア様はもうそこには居なかった。
「アザレア様のおかげです!」
私は、他人に勇気を与えることができるアザレア様のことがより大好きになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます