第11話 魔力操作

グラウンドにて班ごとに分かれ、学校から出された課題をこなしながら魔力の練習を始めるクラスメイトの様子を私は回りながら見ている。


─やっぱり……。


入学して早3か月ほどたち、自分の魔力のコントロールが得意な者と苦手な者が分かれつつある。


それは私ですら普段の授業からもなんとなく察していた。


ニーナ先生も普段の授業の様子を見ながら班を決めたらしく、班のメンバー同士で上手く教え合っている。


ハスとカポックが所属する班を観察すると、やはりカポックがうまくまとめているようでハスも今のところ癇癪を起こしていないようだ。


それどころか、同じ班の女の子たちを口説いてる様子なんかも見受けられる。


─真面目にしなさい。


ため息を吐きながら全体を見渡すと課題に苦戦している班があるので、私はそちらに近づく。


様子を伺っていると、どうやら魔力を使ってぬいぐるみを動かす課題が中々できないようで、どこかに飛んで行ったり暴れたりしている。


ギスギスした雰囲気を感じ取り、私は思わず話しかけた。


「課題はどうかしら?」


極力笑顔で話しかけると、ぴしっと空気が凍る。


─なぜ。


「あ、あの~……実は……」


一人の男の子が私に話しかけようとするが、もう一人の男の子に止められる。


「ばかっ!アザレア様の手をこんなことで煩わせるわけにはいかないだろ」


「そ、そっか……」


目の前でそんなやり取りをされては、私が何のために指導役という立場で合宿に参加しているのか分からない。


私は自ら声を掛けることにした。


「何を言っているの?私は、みんなのサポートをするのだから遠慮なく言ってちょうだい」


5人は顔を見合わせるが、誰が言い出すのかをアイコンタクトで押し付け合っている。


─これは私から話しかけるしかないわね。


私は空気を読んで口を開いた。


「先ほどから見ていたけれど、ぬいぐるみへ魔力がうまく伝わらないようね?」


私のほうから歩み寄ると、5人はぱぁっと顔を明るくし、首を縦に振った。


「魔法具なんかには魔力の導線があるけれど、このぬいぐるみはそれがない。だから、苦戦するのは当然のことよ。私もよくぬいぐるみを燃やして怒られたものだわ」


幼い頃、魔力操作の練習でこれと同じことをやっており、失敗に失敗を重ねたことを思い出して、私はあえて笑いながら過去の自分の失敗談を話した。


「え、アザレア様でも失敗するんですか!?」


一人の女の子がびっくりしたように私を見つめる。


「当たり前でしょ。最初からなんでもできる人なんて、あまりいないわ」


魔力の量も質も高かったのは生まれつき。


だが、それをどう操作し、どう扱うかは本人の努力次第でしかない。


ハスのような最初から何でもできる天才肌もいるにはいるが極稀なことであり、私は完全に努力で今の実力を得た。


ほえ~と言いながら妙に納得する5人。


私は練習してきたからこそ、できない人の気持ちも分かるし、突破口も知っている。


この5人は皆、魔力の出力を魔法具を通して行っている。


私は道具に頼らず直接体から放出できるが、その域に達するまでは、また時間がかかるのだ。


魔法具は、出力を助ける道具であるがその向こうにさらに呪力を操作するものがあると難易度は少し上がる。


「まず、ぬいぐるみのことは考えず魔力を出してみて」


5人は杖の先からそれぞれの魔力を地面に向かって出す。


それはなんなくできるようだ。


「問題は、今の魔力を出した先にもう一段階操作するものがあるということなの」


一番近くに立っていた女の子から杖を借り、私は実践することにした。


「自分の魔力を杖に込める」


すると、私の魔力が杖に留まるが、そこから魔力を出力しない。


「このように、まず杖に魔力を留める。そして、ゆっくりと魔力を出していく」


私が持った杖からは雨上がりの屋根から滴る水のように少しずつ魔力が地面に落ちていく。


その光景に5人からは歓声が上がった。


「このとき、落ちていく魔力にもしっかり意識を集中させることがポイントよ。そして……」


私は杖に留めた魔力をぬいぐるみへと出力する。


その先の魔力にも意識を向け、ぬいぐるみをその場でくるくると踊らせた。


「落ちていく魔力に意識を集中させることができれば、ぬいぐるみに魔力を抽出したときも思い通りに動かすことができるの」


借りた杖を返し、5人に実践を促す。


すると、内1人の男の子が同じように魔力を地面に滴らせた後、ぬいぐるみを一回転させることに成功した。


「おぉ~!すげぇ~!こうやるのか!」


私はその子に向かって拍手を送る。


「そうそう!あなた、センスあるわね」


「へへっ、どうもっす!」


頭を掻くその子の名前は確かヘンゲル・ミシュタインだったはずだ。


「一度感覚を掴めば、あとはその感覚を高めるだけよ」


「アザレア様、教えるのうまいっすね!」


「そんなことないわ。ただ、私が昔そうやって教えてもらったのよ」


そう、私には魔力操作を教えてくれた人がいた。


ふと、その人のことを思い出したが、意識をすぐに現実に戻した。


「みんなも焦らなくて大丈夫よ。むしろ、焦りは禁物。ゆっくり深呼吸して落ち着いてやれば、きっとできるわ」


ヘンゲル以外の4人が首を縦に振り、魔力操作の練習を始める。


私はヘンゲルに近づいてそっと肩に手を置いた。


「あとは任せたわね、ヘンゲル」


「俺の名前、知ってるんスか⁉」


「えぇ、ほらこの合宿を機に覚えたのよ」


「すげ~!あざーっす!」


勢いよく頭を下げられ、私は思わず両手を横に振った。


「アザレア様ー!助けてくださーい!」


声のしたほうへ振り向くと、そこには半泣きのピアノがいた。


「どうしたの?」


私はヘンゲルに別れを告げ、ピアノの方へ駆け寄る。


「このぬいぐるみ、意地悪ですぅ~!」


「あぁ、これはね……」


それから私は、様々な班を回り、アドバイスをしていった。


時間はあっという間に過ぎ、気づけばお昼の時間となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る