第8話 筋肉自慢
私はシャワーを浴びた後、いつもの部屋着に着替えた。
この部屋着はパールホワイトカラーでシルク生地のワンピースで、下にはモコモコの短パンを履いている。
肌触りが良く心地が良いのだ。
いつもツインテールにしている髪を下ろし、丁寧に梳く。
サラサラになると、私はハスの部屋に向かった。
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一応、扉をノックすると中から「どうぞー」と声がかかったので、私は扉を開けた。
中扉の向こうから2人の声が聞こえるため、もう2人ともシャワーを終えているのだろう。
私は「お邪魔します」と言いながら中扉を開けた。
扉を開けると、視界いっぱいに広がる肌色。
私はゆっくり視線を上げると、そこには、上裸ながらに何故か思いっきり格好つけ、こちらを見下ろしているハスとカポックの顔があった。
─何この状況?
私は目を細める。
「よぉ、アザレア」
こうやって数々の女を落としてきたであろうハスの甘い声に私は眉間に皺が寄る。
「今宵は俺とカポック……どっちにする?」
─どういう意味?
─意味がわからないのだけれど。
─選択肢の幅狭くないかしら?
突っ込みたいことが色々と頭に浮かんで消えていく。
この二人は一体何をしているのか。
「おや?」
カポックが私の顔を覗き込んでくる。
「もしかして……僕たちの体に見惚れてしまったかな?」
「あぁ、そういうこと」
─……………………。
ハスとカポックが勝手に話を進めるため、私のイライラは最高潮に達した。
「お邪魔しました」
自分で思ったよりドスの効いた声が出て、扉をそっと閉めた。
「待て待て待てっ!」
慌てた様子のハスが扉を開けてくる。
私は顎を上に持ち上げて「は?」という声が出た。
もちろん、無意識である。
「アザレア、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
半裸でそんなことを言うカポックに私は舌打ちした。
「うるっさいわね。なんなのよ、コレ。何の真似?」
腕を組み踵で床を叩く私に2人は「まぁまぁまぁ」と言いながら私をソファに導く。
私をソファに座らせた後、2人は目の前にあるローテーブルを避け、そこに正座する。
行動のすべてが意味わからない私は、指で組んでる腕をトントンと叩き足を組む。
2人は正座でコソコソとつつきあっている。
「……とりあえず、服を着たらどうかしら?」
「いや!それはできない……」
ハスの言葉に私はますます頭が混乱する。
「僕たち、アザレアにお願いがあるんだ」
カポックの真面目な表情にようやく話を聞くになった私は、腕は組んだままその動きを止めた。
「……なに?」
ハスとカポックはお互い顔を見合わせると、ハスが唇を動かした。
「俺とカポック、どっちの体が良い?」
「はい?」
質問の意図がまったく分からず私は聞き返す。
「いや、だからさ、俺たち2人でどっちの体がかっけぇか比べてたんだけどよ、勝負がつかなくて」
「だったら、第三者であるアザレアに決めてもらったらいいかなと思ってね」
─あなたたち年齢はおいくつ?
私は2人のあまりのしょうもなさに大きく息を吐く。
何故、私がそんな下らないことに巻き込まれなければならないのか。
「知らないわよ。今から女子寮にでも行って、『好きな体の前に並べ―!』って叫んでくれば?」
「「それはアウトだろ? / でしょ?」」
なんでこんな状況で正論を吐けるのか、彼らの境界線が不明だ。
─あなたたちにとって、仮にも女子の前で半裸になって「どちらの体が良いか」とほざくのはセーフなわけ?
と言っても話は進まないため、私は言葉を飲み込んだ。
「……そんなの人の好みによって変わるでしょ」
どっちが良いとか悪いとか以前に、私は一刻も早く服を来てほしい。
─なんで、私の前に半裸の男が正座しているのよ。
そもそも、この状況がカオスなことに2人は気づいていない。
話をさっさと終わらせたくて、私はテキトーに返事する。
「いや、そうなんだけど!それでも良いから、決めてほしい!今!ここで!」
ハスにまっすぐ見つめられ、よく分からないが2人にとっては大事なことなのだろうと察する。
─私にはよく分からないけれど。
私はまずハスを指さしてから、どちらにするべきか神に委ねる歌を歌いながら指を交互に指していく。
すると、最後の言葉でカポックの方を指さした。
「ということでカポック」
「いや、神様のいう通りにするなよ!?こっちは、お前に聞いてんだけど!?」
「その私が神に委ねたのだから私の意思でもあるわよ」
「そういうことじゃねぇよ!」
謎にハスにキレられた私は今すぐにでもこの場から去りたい衝動に駆られた。
「とりあえず、俺らが今からアピールタイムするから、それ見て決めてくれ」
「エントリーナンバー1」と言いながらハスが立ち上がる。
私は完全に諦めた。
ハスは自らの筋肉を見せつけるようにポーズを決めていく。
ここで、ようやく私はハスの体をしっかり見る。
服の上からでは分からなかったが、私の想像以上にハスの体にはしっかりと筋肉がついていた。
細めだが、魔物と戦うに支障はないだろう。
いわゆる細マッチョという奴だろうから、それが好きな女の子は多いと思われる。
ハスは一通りポーズを決めた後、私に近づいてきて私の手を取ると膝をつき、私の手の甲に唇を落とした。
─は?
「なっ!?」
何故かカポックから驚く声がする。
ハスがゆっくりと顔を上げて私の瞳を捉えた。
ハスのマリン色の瞳はキラキラと輝いており、フサフサの睫毛がハスの瞳をよりアンニュイに魅せる。
やはり顔だけは良いなと思った。
「俺を選んでくれたら、セバスチャンを1日貸し出す」
「ずるいぞ、ハス!」
まさかの交換条件を提示してきたハスに私はそれは悪くないと思った。
「分かったわ。下がって」
私の言葉で私の手を離すと再び正座するハス。
それを見たカポックが「エントリーナンバー2」と言いながら立ち上がる。
ハスと同じようにポーズを決めていくカポックは、服の上からでも分かるガタイの良さの裏付けだった。
ハスの細く引き締まった筋肉とは違い、肩周りから腰にかけて綺麗な逆三角形を描いている。
だが、程よい隆々しさなため、これまた女の子に人気そうだと思った。
ポーズを撮り終わったカポックは、私に近づいてくる。
カポックは私の頭に触れると髪先へと撫でていく。
先を持ち、カポックが私の髪に唇を近づけた。
そして、私の髪を耳にそっとかけるとカポックは私の耳に顔を近づける。
─は?
「髪を下ろしたアザレアは大人っぽくて綺麗だ」
喉の奥から出るような囁き声に私の体はぞわぞわと震える。
顔を離すとニコッと艶やかな笑みを浮かべ、再び正座した。
「おい、何言ったんだ?カポック」
「さぁ?」
2人がやいのやいのと言い出しても尚、上手く息ができなかった。
と同時に乗せられたようで腹が立つので、私は拳に力を込めた。
目を瞑りふぅーと息を吐く。
1度心を落ち着けて睫毛を上げると、ハスが期待したような目でカポックは余裕そうな笑みを称え、私を見ていた。
「で?で?アザレアはどっちがいい?」
改めてそう聞かれるとなんで私がという気持ちは残っているが、それは致し方なしと2人を見比べる。
─まぁ、シンプルに筋肉勝負でいくなら……。
私はゆっくりと口を開いた。
「より筋肉の完成度が高かった……カポックで」
「やったね」
「はぁ〜!?俺だろ!?どう考えても!?」
ハスは不満そうに膝を叩いた。
「ハスさんは今後の伸び代に期待したいですね」
「なんだその審査員口調は!?」
こうして、第1回ハス&カポック筋肉コンペティションは幕を閉じた。
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私はお腹に重みを感じ、重い瞼を持ち上げる。
視界の左端に水色の何かが見えるので顔を左に傾けた。
すると、私の鼻を掠めた何かが目の前にある。
ぼやける視界をハッキリさせると、そこには無駄に整ったハスの顔があった。
水色のバサバサ睫毛が私の息で揺れる。
「は……?」
私は反射的に反対方向を向いた。
すると、そこにはサラサラの黒髪にこれまたキレイな顔をしたカポックがすーすーと寝息を立てている。
「はい……?」
私は顔をの位置を元に戻す。
頭を少し起こし、お腹の方を見ると、ハスの長い足が乗っかっていた。
膝を曲げているカポックの足も僅かに私の足に乗っていた。
私は2人の重い足から抜け出すように頭の方へ体をズラし、体を起こした。
─待って、なんなの?この状況は。
私は昨夜のことを思い出す───
筋肉コンペティションが終わったあと、3人でトランプゲームをすることになった。
最初はソファでしていたのだが、寝っ転がれるからと全員でベッドに移動し、だらだらとトランプをした。
そこからあまり記憶がないため、気づかない内に寝落ちでもしていたのだろう。
───そういうことか。
ふと今の時間が気になり、私は部屋の時計を見る。
時計の短針は9、長針は4を指していた。
───つまり、現在の時刻は9時20分。
ちなみに、授業の開始は9時30分だ。
私は急速に頭が冴えていく。
と同時に血の気が引いた。
「ちょっと!2人とも!時間やばいわよ!」
私はハスとカポックの体を揺するが、ん〜と言いながら中々目を開けない2人。
─あぁ、もう知らないわ!
私はこの2人を置いていこうと2人の足を私の体から避けた。
すると、先にハスが目を開けた。
「ん?なに?」
まだ寝ぼけているのかハスは体を起こすことなく、目を擦っている。
今にも眠りに落ちそうだ。
「時間!あと10分で授業始まるわよ」
「あー……」
ハスは水色の瞳を上に動かした後、瞼を下ろした。
「俺はパース。午後から行くわ」
「あ、そ」
私はハスのベッドから抜け出し、走って自分の部屋に戻る。
制服に着替え、髪の毛を2つに纏めると、鞄の中に教科書を詰め、教室まで走った。
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なんとか教室に滑り込み、息を整えながら自分の席に着く。
と同時に始業のチャイムが鳴る。
そっと胸を撫で下ろしながら、私は授業へと頭を切り替えた。
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