02-1

「まだ追って来やがる! しつけえ野郎だぜ!」

 180センチは優に超えるであろう大柄な男は、ちらりと振り返り、執拗に追ってくる金髪のやや瘦せ型の男を視界の隅に確認すると、チッと舌打ちをした。エアバスターミナルは大勢の人々が各々の目的地を目指して忙しなく蠢いている。

 三日月を反転させたようなこの国の領土は、南から順に1区から6区に区画分けされていて、この国の国王である〈カルロス・ドーガルデ〉の名を冠した3区と4区のちょうど中間にある首都〈ドーガルデ〉には、エアバスターミナルをはじめとする公共交通機関が集められている。〈ドーガルデ王立研究所〉などの研究施設が設置されている北端の6区へ行く距離と、領土南方に位置する島国〈ヌーヴァ共和国〉からのスパイ侵入の確率が最も高く、軍事施設が密集している南端の1区まで行く距離がほぼ同じとなっている。まさにこの国の中心地である。此処彼処で、エアバスが離陸したり着陸したりする度に、宙にエアバスの行先を示すディスプレイが浮かび上がる。何か催し物でも開催されるのか、ドーガルデ王立図書館行きの乗り場は中高年の人々が長蛇の列をつくっている。その真ん中くらいに並んでいた銀髪の老婆が、腰まで届きそうな長い黒髪を後ろでひとつに束ねた比較的若そうな女の手を引いて列から離れ、待合室前で何やら揉めているようだが、周りの人間たちにとっては瑣末なことなのだろう。誰一人として意に介していない様子だ。男は、老婆と黒髪の女の姿が辛うじて見える場所に身を潜め、マニーの気配を探した。

「やっぱり、これがないと無理か」

 男は、独り言ちながら、一旦外したシールド型のサングラスを掛けた。これを掛けないと〈メタマテリアルスーツ〉を身に纏ったマニーの姿は視認できない。この男は、〈革命軍エス〉というこの国のお尋ね者組織のリーダー的役割を担っているくせに、構成員たちから、拠点から外に出る時は必ず、〈メタマテリアルスーツ〉を着て行けと言われても、「はい、はあい」と適当に返事をして、武装せずに外出してしまう。この豪放磊落な男は、窮屈な暮らしを忌み嫌っている。故に、指名手配書に多額の報奨金がかけられていると承知の上で、軽装でふらふらと外をほっつき歩き、その都度、追手、と言っても、殆どの場合は、〈マニー〉こと、〈エマニュエル・ベルナール〉に追われるはめになる。

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