01-5

「まずは、俺が家の中に入ってサヨコを来訪者として登録するから、それまで少しここで待っていてね。AIがサヨコをスキャンしている間は動かないでね。下手に動くと、不審人物と認識されて入れなくなっちゃうからさ。ドアが開いたら、中に入って来て」

「あの……もし、私がAIに不審人物とみなされたら場合はどうしたら良いのですか?」

「そうしたら、残念だけど、俺はサヨコを匿うことができないよ。その時は、申し訳ないけど、サヨコ自身の力で何とかしてもらうより他ないね」

「ですよね……」

 この世界に足を踏み入れてから不審人物扱いされ続けてきた小夜子は、また、ここでも、拒絶・排除されるのではないか? というどうしようもない不安に駆られていた。そんな小夜子にはお構いなしに、マニーはドアの前に立った。緑色の光がマニーの体のラインに沿って照射され、彼の情報をスキャンした。

「Welcome back,daddy. Please come in(おかえりなさい、パパ。どうぞ、入って)」

 あどけないこどもの声が聴こえたのと同時に、ドアが開き、向こう側の居住スペースへと彼が吸い込まれていった。その後、暫くの間、ドアは閉ざされたままだった。もしかしたら、家族に事情を話し猛反対されたのかもしれない。冷静に考えれば当然のことだ。得体の知れない人間をほいほいと家の中に招き入れる方がどうかしている。大切な家族がいるのなら尚のこと。妙な親切心を発揮したことが仇となり、家族が危険な目に晒されたら、それこそ、悔やんでも悔やみきれない。明日の朝まで、このお宅の敷地内に身を潜めさせてもらいながら今後のことを考えよう。小夜子がそう考えていた矢先に、扉にマニーの姿が映し出された。

「サヨコ、待たせちゃってごめんね。ちょっと、妻と息子を説得するのに時間がかかっちゃって。今、ふたりからオーケーもらったから、ドア開けるね。あっ、スキャンされている間は動かないでよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 小夜子は、マニーに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。マニーの家族に迷惑を掛けないように静かに暮らして、この世界での生き方がわかったらお暇しよう、と思った。もう、ここが、夢の中の世界ではなく、現実の世界であることに小夜子は薄々気付き始めていたのだ。小夜子が、マニーが立っていた場所と同じ位置に立つと、緑色の光が小夜子の体に照射され、頭の天辺からつま先までゆっくりとスキャンされた。脳、臓器、血管、細胞……小夜子の体の中に詰め込まれているものすべてが覗き見されているような、弄られているような、不快な感触だった。何を解析しているのは解らないが、優秀なAIも、千年前からタイムスリップしてきた人物を調べるのは初めてのことだったのだろう。しばしの沈黙の後、扉に「攻撃性」「緊張度」「ストレス」などの複数項目と数値がグラフで表示された。どの項目も1から100まで目盛りがふられており、おそらく50以内の数値が緑色の平常値。それより数値が高いと「要注意人物」「危険人物」とみなされるのであろうと小夜子は予測した。幸い、小夜子は、すべての項目の数値が平常値内と測定された。

「Aggressionn Tension Stress is within normal range. Welcome,customers, Please feel at home(攻撃性、緊張度、ストレスはすべて平常数値内です。いらっしゃいませ、お客様。どうぞ、我が家でお寛ぎくださいませ)」

 アナウンスと同時に扉が解き放たれ、小夜子は、晴れて、マニー一家の客人として迎え入れられた。

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