01-4

「Command! Take off!(着陸せよ)」

 ディスプレイに向かってマニーが命令をすると、エアポッドは空中停止し、緩やかに高度を落としていった。窓外から見下ろすと、ドーナツ型の建造物が整然と建ち並んでいた。ポッドは再度空中停止し、着陸位置を微調整しているようだった。

「Destination capture! Connect!(目的地補足、接続します)」

 ポッドの底面から、ポッドより一回りほど大きい光の輪のようなものが出現した。そして、眼下に小さく見えるドーナツ型の建物の空洞部分から、その光を受け入れるかのようにしてヘリポートのようなものが上昇した。光の輪は着陸地点に向けて回転しながら下方へぐんぐん伸びていった。その様は、まるで、老舗洋菓子店で幾重にも層を重ねて焼き上げられるバームクーヘンのようだった。ポッドは、用意された光の軌道の中にすうっと入り込みするすると下降していった。その間、小夜子は少しの揺れも感じなかった。

「Arrived at the destination.Thank you for driving(目的地に到着しました。運転お疲れ様でした)

 空色のポッドが無事、マニーの自宅と思われる建物のヘリポートのような場所に到着すると、透き通った半円型の天蓋がドーナツの空洞部分を覆った。小夜子は宙を見上げ、あっ! と驚きの声を漏らした。空は宵の頃の色を感じさせるのに、夏の夜空を彩る星がひとつも見当たらなかったからだ。呆然とする小夜子を見て、マニーが、「どうしたの?」

と声を掛けてきた。

「星が……ないのですね」

「ああ。〈グレーアウトの悲劇〉以前の世界では、地球から星を見ることができたらしいね」

「グレーアウトの悲劇?」

 初めて耳にした言葉に対し、小夜子は首を傾げた。

「二十三世紀に地球全体を襲った小惑星の連続的な衝突のことだよ。そんなことまで忘れてしまったのかい?」

 さすがのマニーも、小夜子の対応に疲労の色を隠せない様子だった。小夜子は口を噤み、おとなしくマニーの後をついて行った。ヘリポートがある屋上階から階下へと続く階段はカタツムリの殻の部分のように渦を巻いていた。居住エリアの入口と思われるドアはエレベーターの扉のような両開き式で、水平に両サイドにスライドして開くタイプのようだった。

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