02-2
なぜ、マニーは、これほどまでに、この男を捕えることに執着しているのか? マニーの目当ては、報奨金などではない。報奨金目当てだったら、報奨金ランキング一位のこの男を狙うヤツらがもっと大勢いる筈だ。この時代のこの国において、真っ当な国民は然程「金」に執着していない。国の政策により、無理に働かなくとも豊かに生きていけるだけの〈ライフマネー〉が毎月国から支給されているからだ。この国に於いて働くということは、言わば、趣味みたいなものなのである。〈ドーガルデ王立研究所〉の副所長として勤務しているマニーは、〈ライフマネー〉に加えて、高額な賃金も手にしている。報奨金なんて彼にとってはオマケみたいなもので、彼が欲しているのは、おそらく、自分のクローン人間だ。報奨金幾ら以上の危険因子を捕えれば、クローン人間をつくって貰えるのか? 条件は明らかにされていないが、最も危険と見做されている人物を捕えれば、確実にクローンは手に入るのだろう。
どうやら、老婆と黒髪の女の話し合いは終わったらしく、老婆は、再び〈ドーガルデ王立図書館〉行きの場所に戻り、女は、待合室の壁に寄りかかり、まるで、全身の力が抜けたみたいになって、そのまま、するするとその場に蹲った。
「Suspicious Person Suspicious Person! (不審人物 不審人物!)」
気色の悪い人工的な声がエアバスターミナル全体にけたたましく響いた。そして、中央にある、2870年の〈ドーガルデ王国〉建国の際につくられた、カルロス・ドーガルデ国王の金の記念像の下に敷かれた台座が上がって、地下に配備されているパトロールロボが3体、パトロールテーブルに乗って登場した。ポッドに搭乗して、レーザー銃を脇に抱えている。そして、銃口は男がいる方に向けられている。
「チッ! 鉄屑どもがいきがりやがって!」
男は、〈マシンブーツ〉のギアをMAXに切り替えた。男がリーダー的役割を担っている〈革命軍エス〉の仲間が開発してくれたアイテムだ。追っ手から逃れるときにかなり重宝している。背後50メートルほどに迫っているマニーと、3体の旧式のロボを一気に躱そうと、「スリー、ツー、ワン、ゼロ!」で加速した。
「あれっ、妙だな。ヤツら、俺を狙っているんじゃないのか?」
男が派手に動いたというのに、ヤツらは微動だにしない。男は、銃口が向けられている先を見遣った。
「あっ! やべえ!」
男は慌てて引き返したが間に合わず、待合室前の壁はレーザー光線によって消し炭と化していた。任務が終わったパトロールロボは、再び地下へと潜り、ターミナル中央には、太陽光に照らされた〈カルロス・ドーガルデ〉の像が何事もなかったかのようにキラキラと輝いていた。一般人を巻き込んでしまった罪悪感から、今度は男が、黒髪の女が蹲っていた場所に蹲った。ピピッという電子音が鳴って、空中ディスプレイが男の前に出現した。
『今日のところは、オマエより価値のあるものを手に入れることができたから、見逃してやるよ』マニーより。
「ふざけた野郎だぜ」
そう呟きながらも、男は、とりあえず、黒髪の女の命が無事だったことに安堵のため息を漏らした。しかし、マニーにとって、あの女が、自分より価値のあるものだっていう言葉が引っ掛かった。確かに、挙動不審ではあったけど、普通の変な女なんじゃないのか? まさか、〈ヌーヴァ〉のスパイってわけじゃああるめえし。わけがわからねえ。また、あの女とは会う気がするな。男は思った。
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