01-2

「Suspicious Person Suspicious Person!(不審人物 不審人物!)」


 バスターミナルのような場所の中央にある蓮の花のような巨大な台座の上に建てられた、髭をたくわえた男性の金色の像が、光りながらぐるぐると回転し上がりきると、奈落から、歌舞伎の回転舞台の『盆』のような装置が地上に突き上げられた。盆の上にはレモンイエローのポッドに搭乗したロボットが3体レーザー銃のようなものを携え、ターミナル内を探索しているようだった。この時代の人々にとっては、然程珍しい出来事ではないのか、ひそひそと小声で会話をする人々が幾人かいるだけで、騒ぎ立てるような人は見当たらなかった。


「Found! Suspicious Person!(みつけた! 不審人物!)」


 『07』と左側の側頭部に書かれたロボットの目が、赤く点滅した。別方向を探索していた『04』ロボと『11』ロボが、『07』ロボの両端に並び、脇に携えていたレーザー銃を取り、構えた。

――刹那、

黒い影が眼前に現れ、小夜子を連れ去った。今しがたまで彼女が居た場所は三体のロボが放ったレーザー光線で真っ黒な炭と化していた。黒い影の正体が人間の男であると小夜子が分かるまでに数十秒の時間を要した。男は、起動装置付きのスケートボードのような乗り物に乗っていた。確か、『ホバーボード』という乗り物だったかしら? などと、小夜子は、また、SF映画のことを思い出していた。しかし、仮に、その乗り物が『ホバーボート』だったとしても、搭載された機能は、小夜子の想像の遥か斜め上をいっていた。ボードは最高速度に達すると、あっという間に上昇していった。男が、

「Transformation No.3」と言うと、空中ディスプレイが男の眼前に現れ、「I accept」という文字と音声が同時に流れた。ボードの底面から翼のようなものが生えてきて、瞬時に二人を包み込み、空色の乗り物へと変化した。〈エアポッド〉と呼ばれている乗り物だ。


「危ないところだったね、お嬢さん」

 全身装備を解除した男は、三十代後半から四十代前半くらいに見受けられた。少し癖のある金色の髪にエメラルドグリーンの瞳。端正な顔立ち。ハリウッド映画だったら、完全にふたりが恋に落ちるシーンだろう。

「あ……助けてくれて、ありがとうございます……あの……私は、なぜ、あのロボットたちに命を狙われたのでしょうか?」

 もし、この男があの時助けに来てくれなかったら、真っ黒な炭と化していたのは壁ではなく自分だったのだ、と思うと、小夜子は、今更ながら背筋が凍てつくような恐怖に駆られた。この世界では、人間の命というものが尊重されていないのだろうか? ターミナル内に警告音が鳴り響いて、あの三体のロボットが現れた時も、人々は、何食わぬ顔をしていた。小夜子の中で、この世界と、この世界に住まう人々に対する嫌悪感が強くなっていた。

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