第45話 素手で戦うんじゃなくて、武器が欲しい



「穢れが大量に向かってきている。だが、寄生はしていない。恋、善、悪は、下がっていろ」

 

 白樹が指示を出す。それは、すごく有難い。有難いのだが──。

 

「何で、白樹も見えてるの?」

「花の目のおかげだな」

「え? どういうこと?」

「説明は後だ。来るぞ!」

 

 穢れへと視線を戻す。っていうか、多過ぎない? 清さん家の規模を遥かに越えている。目の前真っ暗事変、再びになるのだろうか。

 

 ……というか、この穢れを相手にどう戦えばいいの? 白樹は当然、刀だよね。みんなは見えないから、そもそも戦えない。

 私の武器は? えっ? やっぱり素手なの? 私もやっぱり、武器が欲しいよー。

 

『弓矢がいいんじゃないかしら? 風で飛ばしてあげるわよ?』

『それがいいな。では、我が弓を作ろう』

『俺は……ひょうで矢じり代わりにするか』

 

 風、木、空が、私の嘆きを拾って武器を作ってくれるらしい。

 話しかけてなくても、心の声が聞こえていたみたい。恥ずかしすぎる。

 

『気にするな。契約とは、そんなもんだ!!』

『そんなもんって、アバウト過ぎません!?』

 

 私の抗議など、何のその。契約してくれたみんなで力を合わせて、ものの数十秒で弓矢が完成した。

 

『ありがとう。ところで、弓矢で浄化ってできるの?』

『さぁ? 真理花が武器を欲しがってたから、作っただけよ』

『組紐をくくりつけるのは、どうだろうか?』

『やってみれば、分かることだ』


 まぁ、確かにやってみれば分かることか。


「白、契約した子たちが弓を作ってくれたの。使ってみてもいい?」

「あぁ。良い契約をしたな」


 良い契約か……。お願いをする前から動いたりと自由な感じだけど、白樹の言う通りだ。


「よし。風よ、お願いね!!」


 へろりと放たれた矢は、風の力を借りてぐんぐん加速していく。


「わー! すごいっ!!」

『このくらい、当然よ!!』


 どこか自慢げな声が微笑ましい。まぁ、今はそんなことを言っている場合ではないのだけど。


 飛んだ矢は、穢れの中に入っていった。けれど、何も変わらない。


「だめだったかぁ……」


 残念だけれど、仕方がない。武器については、どうやったら自分が使えるのか、お屋敷に帰ってからゆっくりと検証することにしよう。


「花、駄目じゃない」

「えっ!?」


 白樹に言われ、目を凝らす。矢が淡く光っている。黒の中に埋もれた、白い光り。それは間違いなく、みんなの力で作ってもらった矢だ。

 どうやら、少しは浄化してくれたらしい。そう思ったのも束の間……。


 どごんっ!! という低い音が響いた。


「……今、変な音がしたよね?」

「殴り付けるみたいな音だったな」


 どういうこと? そう思って穢れが飛んでくる空を見上げていれば、穢れが米粒のように小さくなって散り散りに飛んでいく。そして、その粒はまるで蒸発するかのように消えた。


『おぉっ! 派手でいいな』

『流石、真理花。これならば、すぐに浄化できるのではないか?』

『覚醒したからかしらね。浄化の威力が増し増しだわ』


 ウキウキしている声がする。けれど、私は乾いた笑いしか出なかった。


「可能な限り、矢を放てるか? 近くに来なければ、俺は戦えない」

「えっ? あ、うん……」


 弓は遠距離だけど、刀は至近距離だもんね。私たちが浄化しきれなかった穢れを、白樹が消してくれるのだろう。

 一心不乱に、弓で矢を射る。木々と空は、ひたすら矢の生成をしてくれた。


 どごんっ!! どがっ、どごどごどごっっ!!


 音が変なのは、気にしない。気にしないったら、気にしない。


「花、おしまいだ」


 そう声が掛かったのは、何本の矢を放ってからだろうか。へろへろとした矢しか放てなかったが、腕が重い。絶対に筋肉痛になるやつだ。


『みんな、ありがとう。弓の練習もしとくね』

『お安いご用よ。練習なんか、私たちがいるもの。しなくていいわよ』

『うむ。良い心掛けだな』

『お疲れ様。浄化できて良かったではないか』


 本当に三者三様の返事。風、木、空は、個性に溢れている。何でも契約ができると白樹は言った。きっと、全てのものに性格があるのだろう。声が聞こえてなかっただけで。


「やっぱり、ファンタジーだわ」

「何がだ?」

「ん? 契約したみんながね、色んな性格をしているなって。話してみるまで、こんなにも聞こえない声が溢れてるなんて、知らなかったから」


 そう言うと、白樹は納得したような顔をした。


「花には、聞こえるのだな。それだけ、契約したものに好かれているのだろう」

「契約すれば、誰でも聞こえるんじゃないの?」

「残念だが、違うな」


 これも花嫁の力なのかな。思った以上にチートだわ。


「声が聞こえるのは、どれだけ好かれているかだ。花嫁だからではない」

「何で分かったの?」

「顔に書いてある」


 くすりと笑った後、白樹は表情を曇らせ私の頬を撫でた。撫でた先にピリッとした痛みが走る。


「すまなかった」

「ううん。勝手についてきたからだよ」


 白樹が撫でたのは、無為に爪を立てられた箇所だった。


「そもそも、ついてきたがる花を頑なに認めなかった。それが原因だ。一緒に来ていれば、今よりもつらい思いはしなかったかもしれない」

『たられば論など無意味だ』


 バッサリと木が切り捨てる。その声は白樹には聞こえていない。

 確かに木の言う通りだ。だけどね、そんな簡単に心は割りきれないから悩むんだよ。次は……って、未来をより良いものにしようとできるんだよ。


「そうだね。もしかしたら、つらい思いはしなかったかもしれない。もっとつらくて苦しかったかもしれない」


 そんなこと、白樹だって分かっている。それでも私は伝える。


「現実は変えられない。どんなにつらくても」


 そう。どんなにつらくても、変えられないのだ。償いたくても、その相手がこの世にいなければ、それもできない。


「でもね、白が私を守ろうとしてくれるから、私は強くなりたいと願うんだよ。それはずっと、変わらない。白が私を強くしてくれる」


 支え合いたい。後ろではなく、隣を歩いていきたい。そう願うんだよ。


 

 

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