第5話 中二病……かな。
「ここは、日本ではなく
「そうだ」
「言葉が通じるんですけど」
「こっちに来たものは皆がそうだ」
「この世界に来たのは私だけじゃない?」
「代々、国の
「代々……。白樹さんは国のトップなんですか? あと、今現在こっちに花嫁として来ている人はいますか?」
「あぁ、陽元を納めている。花嫁はフィンランドとインドから来た者が他国にいる」
「なぜ、花嫁は同じ世界の人じゃだめなんですか?」
「国を守る能力がないからだ」
うわっ。また分からないことが増えた。
国を守るって何? 能力って、そんなの持ってないんだけど。
「何から国を守るんですか?」
「
はい!? 穢れ? なんじゃそりゃ。中二病極まってるよ。
「……それって何ですか?」
「
え、今度は宗教的なやつ? 犯罪は全て穢れのせいとか言い出しそう。うん、ここはスルーして次の質問にいこう。
「えっと、私にも国を守る能力があるってことですか?」
「そうだ」
「どんな能力ですか?」
「分からない。だが、必ずある。神に認められた花嫁だからな」
そういえば、結婚も神に認められたって言ってたっけ。
「私をこの世界に連れてきたのは誰ですか?」
「神だ」
やっぱり。今の流れからして、そうだよね。うーん、中二病っぽい。いや、宗教関係も捨てきれない。
「私は……帰れるんですか?」
「こっちへの道は片道通行だ」
片道切符……。
聞かなきゃ良かった。せめて、他の質問を終えてからにすれば良かったのに。私の馬鹿……。
「真理花?」
あぁ。この
「帰る方法は絶対にないんですか?」
「絶対……かは、分からない。帰りたいと望んだ花嫁はいなかった」
帰りたいと望んだ人がいない? そんなわけ──。
「真理花は帰りたくないと望んでこっちに来たんじゃないのか?」
白樹さんの言葉に、帰りたくないと叫んだことが頭を過る。
「だからって、本気で言ったわけじゃ……」
「本当か?」
金色の瞳に真っ直ぐに見詰められ、何も言い返せない。
あの時、確かに私は本気で帰りたくなかった。家族も、親戚も、結婚とうるさい田舎者も……全部捨ててしまいたいと心のどこかで願っていた。
「それでも……やっぱり帰りたい」
どうにか絞り出せた声は掠れて、誰にも届かず消えてしまいそうなほどに小さかった。
「分かった」
「分かったって、何が?」
八つ当たりのような言い方に、自分が嫌になる。
どうにかして欲しいと言えるほど素直にはなれなくて、大丈夫だと笑えるほど大人にもなれない。
気持ちが追い付かない。不安だ。中二病の方がマシだったかもしれない。
そうだ、死後の世界かもしれないと思った時にはどこか安心した気になったけれど、本当はずっと不安だったのだ。ここに来てからも、来る前も。漠然とした未来に不安ばかりだったのだ。
「真理花が帰りたいのなら、手段を探す。花嫁の頼みは絶対だ」
「何それ……」
花嫁とかよく分かんないし、話は中二病か宗教だし、何をしたら良いのか、どうしたら帰れるのかも分かんない。
この人たちにとって、私が役に立つ保証なんかないのに、どうして当たり前のように助けてくれようとてしくれるの?
「見返りは何ですか?」
有り難く思っているのに、こんな口を聞いてしまうなんて本当に可愛げがない。いや、可愛げなんて通り越して、性格が悪い。
「一緒にいて欲しい」
「えっ?」
「真理花が帰るまでの間でいい。一緒にいてくれないか?」
真剣な表情で見詰められ、ドクリと大きく心臓が跳ねた。
何これ、何これ、何これ!?
見目麗しい人に言われる破壊力がすごい。
「帰るまでで良ければ……」
うぁーーーー!! 顔に負けた。さっきまで不安だとかしんみりしてた気持ちまでもがこの美しさにひれ伏している。
情緒不安定。まさに、今の私を表すのにピッタリな言葉だろう。
「真理花、俺以外の人間に真名を教えるな。真理花の名を呼ぶのは俺だけだ。普段の真理花は『
そうだった。なぜ私が花と呼ばれているのかという謎も残っているんだった。
「真名を知られれば、悪用されるかもしれない」
「悪用?」
でも、出会ってすぐに白樹さんは私に名前を教えてくれたよね……。
「真名を教えていいのは、親と結婚相手だけだ。いくら親しい友人でも教えてはいけない」
「どういうことですか?」
「真名は契約に使われる。もう一つの命だ。悪用されれば
死? え? 死ぬの? ここが転移先(仮)として、死んだら帰れるとかいうオチはあるのかな……。
まぁ、そんな賭けできないんだけどさ。
「あの、契約ってありましたけど、名前にどんな関係があるんですか?」
「……真名を使って契約する」
「それは、先ほど聞きましたよ」
「……。真名を使って……」
あ。これ、説明できないやつか。うーん。質問を変えないと。
「私も契約できますか?」
「できる」
「例えば、どんなのが?」
「何でもだ」
うわぁ。またもや具体的じゃない。説明してくれるのはありがたいけど、事細かに聞かなきゃいけないんだもん。……面倒になってきた。
いやいやいや! だめだめ。ここは面倒がっていられる状況じゃないんだから。
「私も契約してみたいです」
「もう俺としている」
「えっ?」
「婚姻も契約だ」
なるほどー! あの文字のキラキラは契約された証拠だったのかな?
「って、そうじゃなくて! 今、契約をしてみたいんです」
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