第4話 ファンタジーが過ぎる


「ファンタジーが過ぎる」


 思わず溢れた言葉に、白樹はくじゅさんはくつくつと笑う。


「おいで」


 当たり前のように差し出された手をとり、扉をくぐれば、広々としたお部屋が待っていた。なんだか、ど●でもドアみたいだ。


 部屋は、全体的に落ち着いた焦げ茶色の家具はクラシカルな雰囲気で、深みのある赤い絨毯じゅうたんに、ガラス素材のランプシェード。大きな窓の上には、色ガラスはめ込まれて椿の模様が描かれている。


 促されるままに布張りのソファーへと腰をかけたところで、扉がノックされた。


「失礼致します」


 先ほど紹介してくれた三人がお部屋に入ってきた。

 郎さんは白樹さんに何かを手渡し、雪さんとれんさんはお茶の準備をしてくれている。


「花様、どちらのお菓子を召し上がりますか?」

「えっと……チーズケーキをお願いします」

「かしこまりました。私どもには気軽にお話ください。敬語は必要ありませんよ」

「あ、はい……」


 うわぁー! 背中がムズムズする!!


 優しげなおじいちゃんの郎さんに、凛とした雰囲気の雪さん。私よりも年下に見える可愛らしい恋さん。お屋敷の人たちが丁重にもてなしてくれているのは、とってもありがたい。

 だけどね、一般市民の私からしたら過分な対応なのよ! もう、どうしたらいいのか分かんない!!


「少しずつ慣れていってください」

「恋さん……」

「恋と呼んで頂けたら嬉しいです」


 優しい言葉に感動していたら、これまた優しく呼び方を訂正されてしまう。

 そもそも、自分の今の立場もよく分かっていないのに、どうすればいいのかなんて分かるわけがないのだ。



「花と話をする」


 白樹さんの一言で三人は退室していった。それなのに、部屋は静寂に包まれる。


「あの……」


 この沈黙に耐えられなくなったのは、私だった。非常に濃いはじめましてだったが、出会ったてからまだ一時間も経っていない。気まずい。


「ここは、死後の世界じゃないんですか?」

「死後ではない。だが、真理花の世界でもない」


 あ、真理花になった。さっきまでは、花だったのに。

 ……って、今はそれどころじゃない。死後でも私のいた世界でもない。そうなると、私が思い付く選択肢はあと二つ。夢か、異世界か……。


 うん。異世界はないな。そんなの物語の世界だけだろうし。何より二十七歳にもなって、異世界転移だ! なんて思うことすら恥ずかしい。

 そう。あり得ないのだ。あり得ないのに、心のどこかで異世界転移を疑っている。……私は中二病なのかもしれない。


「ここは、陽元ようげん。真理花の世界の言葉でいう異界いかいだ」

「異界……」


 えっと、異世界ってことだよね? 嘘でしょ? いや、現実ほんとうなのか? 私の潜在的な中二病脳がそうさせているのか?


「真理花は俺の花嫁として呼ばれた」

「花嫁……」


 ファ、ファンタジー!!


 感想がこれじゃないのは、分かってる。だけどもう、これしか出てこない。ファンタジーが過ぎる。いや、これも中二病か?


 ……うん。正直に言おう。気を悪くするかもだけど、きちんと伝えることが大事だよね。


「ごめんなさい。意味が分からないです」

 

 予想を越えたことをファンタジーと言ってきたけど、何もかもが意味不明。

 陽元? なんじゃそりゃだし、花嫁とか理解不能。中二病脳だとしても、脳が受け入れを拒否してる。


「何が分からない?」


 何がと言われても全てだ。だけど、白樹さんは説明が下手くそだ。それだけはわかる。こちらから聞いていくしかない。

 

 私は鞄からメモ帳とボールペンを出すと、メモを取る用意をする。

 社会人五年目。取引先で言葉足らずな上にミスを私のせいにする人だっていた。態度が糞みたいな人もいた。女だからと馬鹿にするクズもいた。

 白樹さんは言葉は足りないけれど、人のせいにするようには思えない。大丈夫。一から確認しよう。



 

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