第85話:滅びた文明

 メンタル的な問題で喋れないまま大人になってしまったアニムス。

 意図せずに罪もない人々の命を奪ってしまった記憶は、消えない心の傷となって彼の声を封じている。

 アルビレオからの報告では、大人になってからは夜中に悪夢を見て苦しんだりはしていないそうだけど。

 失語症があるうちは、まだ精神的に苦しんでいるのかもしれない。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




 その惑星ほしの文明は、既に滅びていた。

 砂漠と化した大地、干上がった海。

 生き物の姿は無く、都市の残骸と思われる瓦礫があるのみ。


 かつて、地球人も犯した過ち。

 知的生命体が放った大きすぎる力によって、壊滅的なダメージを受けたその星は死の世界となってしまっている。


「まるで、【核の冬】の地球みたいだね」


 生命反応が1つも無い惑星。

 その上空を飛行するアルビレオ号、その艦長室を展望モードに切り替えて地上を見下ろしながら、トオヤは呟く。

 他の乗組員たちも白鳥型の宇宙船の胸元にある展望デッキに集まり、広がる砂漠を見つめていた。



 砂漠の惑星。

 かつて栄えた文明の民から【エバネセ】と呼ばれた星。

 探索チームのカール、チアルム、アニムスの3名は、アルビレオによる環境適応化オプティマイズを受けて、生物が滅びて久しい場所に降下した。


「アニムスが気配を感じたというのは、この辺り?」

『うん』

「生命反応は感じないから、生き物ではないのかもしれないね」


 3人はそんな会話を交わしながら、果てが見えない砂漠の上空を飛行していた。

 白い翼をはばたかせるチアルムがカールを抱えて飛び、念動力による浮遊移動レビテーションが使えるアニムスが並ぶ。


 異なる星に生まれた少年たちは大人になり、移民団の惑星調査メンバーになった。

 防壁と気配探知を担うのが、アクウァ星人のカール。

 メンバーの運搬と回復を担うのが、アーラ星人のチアルム。

 強力なサイキックによって、メンバーに害なすものを片付けるのがアニムス。

 3人は統制のとれたチームとして、トオヤ艦長から信頼を寄せられている。


『あ、見つけた。あそこだよ』


 未だアニムスは音声会話が出来ず、精神感応テレパシーによる会話に頼っていた。

 その原因はメンタル的なもので、肉体に障害があるわけではない。


「遺跡……塔かな?」

「降りてみよう。念のため防壁は展開しておくよ」


 青年たちは地上へ降りて、古い建造物に近付いてみた。

 円筒形の建築物が、斜めに傾いた状態で砂漠の砂に半ば埋もれている。

 彼らが地球人であったなら、ピサの斜塔を連想したかもしれない。


『あっちに誰かいるよ』

「気を付けて。僕には探知出来ないものみたいだ」


 気配探知を続けるカールには発見出来ない何かを、アニムスは感じ取っている。

 防壁に護られながら建物内を進む3人の前方に、高度な文明を思わせる設備が見えてきた。

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