第83話:分離と復元

 惑星アーラを訪れた時のアルビレオ号には、まだ修復途中の機能があった。

 それは、新たな人工生命体を作り出す機能。

 端末がアイオ1人だったのもそうした事情だ。

 人工生命体はアルビレオに登録された細胞構成データを使って同じものを復元したり、違う人間のデータを組み合わせたりして作られる。

 この機能を使えば、死者を新たな生命として復活出来るという。

 機能の修復が完了した時、アルビレオに宿るルチアは、自身と夫カエルムの復活を願った。

 夫婦は憑依した身体ではなく、自分の肉体を持ちたいと思い始めたらしい。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「……お父さん……お母さん……」


 円筒形の培養カプセルで育ち続ける胎児を見つめて、チアルムはそっと呟く。

 卵から生まれる翼人だが、人工生命体として生み出された2人は卵の殻を持っていない。

 チアルムは珍しそうに胎児たちを見つめていた。


『かわいいチアルム。真っ先にあなたを抱き締めるから待っててね』


 既に女性の胎児に宿っているルチアが、精神感応テレパシーで語りかけてくる。

 新たな肉体はアルビレオに保存されている翼人ルチアの細胞構成データを使って作られた。

 胎児は育てばルチアそっくりの翼人となるだろう。


『アエテルヌムの英知には驚くばかりだよ。まさか身体を復元してもらえるとは』


 隣のカプセルの中から、男性の胎児に宿ったカエルムが言う。

 傍らには、今まで彼の宿主となっていた青年トオヤがいる。

 カエルムはトオヤと精神感応テレパシーで話していた。


「チアルムが子供のうちに復元してあげられたら良かったんですが……」

『大丈夫、成長してゆく様子はずっと見ていたもの』


 申し訳なさそうなアイオに、ルチアの【声】は優しい響きで応えた。

 ルチアはアイオに、カエルムはトオヤに。

 それぞれ身体を借りて、何度も愛しい我が子を抱き締めてきたから。


「同じだよ。トオヤとアイオも、新しい身体に宿った2人も。僕にとっては大好きなお父さんとお母さんだから」


 少年から青年に育ったチアルムも、微笑んで言う。

 チアルムにとっては、育ての親も生みの親も、同じくらい大切な存在だ。



 目標年齢まで成長は促進され、胎児は急速に成人の姿へと変化していく。

 もともと翼人は胎児期の成長が早く、産卵後20日ほどで胎児は少年少女の姿に育つ。

 培養カプセルはそれよりも更に早く、ルチアもカエルムも10日で少年少女に、20日で成人の身体になった。


「チアルム! 私の可愛い坊や!」


 予告通り、ルチアは真っ先にチアルムを抱き締める。

 黄金の髪と空色の瞳の女性は、輝くような笑みを浮かべた。

 それはまるで、出産後に初めて我が子を抱く母親のような笑顔。

 しかし、この時のチアルムはもう成人男子だったので、抱き締め合う様子は親子というより恋人と間違えそうだった。


「おーい、父さんも混ぜてくれないか?」


 2人の世界に入ってしまっている妻と息子。

 出遅れてしまい、おいてけぼりみたいになったカエルムが苦笑しながら声をかける。

 それでルチアとチアルムがハッと我に返り、2人揃ってカエルムに抱きついた。

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