第9章:世代交代
第81話:継承者
移民団のアエテルヌムへの旅が、長くなることは分かっている。
アルビレオとの
乗組員最高齢のパウア師匠が、旅の途中で生命の時が終わる事も予感していた。
想定内、予感していたこと。
でも、いざその時がきたら、どうしようもなく悲しくなるんだね……
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「トオヤ、お前は俺の誇り、俺が生きた証だ」
パウアから告げられたのは、満足そうな言葉。
トオヤにとって育ての親であり、師匠でもあった男は、穏やかにその生を終えつつあった。
移民の旅の開始から20年。
90歳を過ぎて随分と老いたパウアとは違い、トオヤは太陽系を出た時と変わらぬ青年の姿のまま。
不老不死はアルビレオの所有者トオヤと端末のアイオとセラフィだけだが、ルチアのようにアルビレオに思念を残すという選択肢もある。
元の肉体の遺伝子を元に人工生命体を作り、そこへ思念を移植するということも出来る。
けれどパウアは、自然のままの限りある生を望み、命の終わりを迎えることを選んだ。
「思念なんぞ残さなくても、俺の技術も知識も全てトオヤが引き継いだからな」
パウアはそう言って笑っていた。
彼が持つ操船技術も、戦闘に必要な武術も、それに関わる様々な知識も、ありとあらゆるものが、トオヤに継承されている。
トオヤは元々、パウアの跡継ぎとなれる能力を持つように、出生管理局が遺伝子を組み込んだ人間だ。
「お前は俺の自慢の息子だ」
「ありがとう、父さん」
普段は師匠と呼ぶ相手を、父と呼ぶトオヤ。
人工授精や遺伝子操作で生まれてくる、コロニー出身者に血縁者はいない。
コロニー出身者の両親は、全て養父母だった。
しかし血の繋がりは無くても、共に暮らせば親子の情は湧いてくるもの。
パウアとトオヤの絆は、血縁者に劣らぬ強さを持っていた。
「俺の遺灰や遺骨は、アエテルヌムの大地に埋めてくれ」
「必ず持って行くよ」
パウアは遺言で、アエテルヌムの土に還る事を望む。
そうすれば、目的地に着いたのと同じだと言う。
トオヤは頷き、承諾した。
老衰による死は、静かに訪れる。
パウアはまるで眠りにつくように、目を閉じると息を引き取った。
全く苦しむ様子が無かったので、看取ったトオヤは最初のうち「眠っただけかな?」と思ったほど。
ベッドの傍らにある測定機の生命反応がゼロになったのを見て、ようやくその死に気付いたトオヤは、涙を流しながら黙祷を捧げた。
パウア・シェル永眠、享年96歳。
遺体は火葬し、遺灰や遺骨はカプセルに保管され、移民団と共にアエテルヌムを目指すこととなった。
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