端末アイオの記録⑧

 アイオです。

 今回はアルビレオが記憶している、トオヤたち地球人の歴史をお話しておきましょうか。

 地球文明の時代で15世紀頃、アルビレオは地球を発見しました。

 当時の知的生命体たちは「大地は不動のもので、太陽や月がその上空を移動している」と信じていて、移民の話はまだ無理だと判断したアルビレオは、地球の衛星(月)地下に隠れて彼等を観察しました。


 アエテルヌムではD因子のせいで人口が減る一方でしたが、地球では人口増加が続いていました。

 絶滅を防ぐため、アエテルヌムの知的生命体たちは、生命の時を止めて眠り続けています。

 そんなアエテルヌムの人々には無い、D因子を退けて子孫を残せる遺伝子を持つ地球人たち。

 アエテルヌムに新たな生命と知的生命体を生み出すために、長い時を待ってでも、その遺伝子を持ち帰らねばなりません。


 過去の地球では、頻繁に戦争が起きていました。

 戦争は、人間だけでなく、地球そのものにもダメージを与えます。

 やがて地球は壊滅的なダメージによって、生物の棲めない星になってしまいました。

 そこで地球人は戦争の愚かさに気付き、故郷の星を出ると共に【国】【民族】という概念を捨てる事にしたのです。


 地球に住めなくなった地球人たちが、コロニーに移住する際に、大きく変わったことがあります。

 それは、子孫の残し方。

 地球という惑星に比べて狭すぎる、作られた居住地。

 そこで無計画に子供が生まれ続けたら、すぐに満員になってしまいます。

 生産できる食料や水、酸素などにも限りがあり、キャパシティを超えることは全人類の滅亡に繋がります。

 そこでコロニーに移住した地球人たちは、卵巣または精巣を摘出されるようになりました。

 コロニーの人口は管理を徹底され、子孫は全て人工授精での誕生のみに切り替えられています。

 性行為で子孫を残すことが無くなってから、地球人は結婚も恋愛も性別を問わなくなりました。


 卵巣や精巣の摘出手術時期は年々早まり、コロニーメンバー最年長のパウアの世代は20歳頃でしたが、最年少のトオヤの世代では10歳前に施術されています。

 最初は不思議だったベガの「酔うと女湯へ向かってしまう症候群」ですが、アルビレオの分析の結果、精巣摘出時期が遅かったので、男性としての欲が強く残っている事が要因となっているようです。

 一方、かなり早い時期に摘出手術を受けたトオヤは男性としての欲がほとんど無いようで、惑星リベルタスで全裸のセラフィに抱きつかれても冷静でした。


「トオヤにとって、恋愛とは何ですか?」


 ボクは質問してみました。

 トオヤは少し考えた後、こう答えました。


「大切な人を守ること、かなぁ?」


 間違ってはいないかもしれません。

 それも恋愛のカタチですものね。


 でも、もっと何かありません?


 トオヤの恋愛に対する感覚は、思春期前で止まっているのかもしれません。

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