第80話:艦長室
白鳥に似た形状の宇宙船アルビレオ。
その艦長室は、白鳥の頭部にある。
僕の居住空間でもあるそこは、展望台みたいにとても見晴らしが良い場所だ。
四方の壁も天井も床も、全てを展望モードに切り替えれば、プラネタリウムよりも広範囲で多くの星々が見られる。
上下前後左右全てを展望モードにすると、自分と家具が宇宙空間に浮かんでいるみたいになるよ。
僕のプライベートルームなので、他の乗組員は基本的に入って来ない。
パートナーのアイオは同居で、一緒に寝ているせいか、乗組員たちからは【スイートルー厶】なんて呼ばれているよ。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
艦長のプライベートエリア内、トオヤとアイオの寝室。
2人がベッドで寄り添って眠ると、入れ替わりに目覚める夫婦がいる。
「子供たちは寝たかい?」
「ええ。カールったらまたイルカに戻っちゃって、チアルムとアニムスの抱き枕になってるわ」
「あの3人は本当に仲良しだね」
「おかげでチアルムが親離れして、私としては少し寂しいわ」
チアルムの両親、カエルムとルチア。
死によって本来あるべき肉体を失った翼人たち。
夫のカエルムはトオヤに、妻のルチアはアルビレオ号に宿っている。
アイオはアルビレオの端末なので、夫婦の時間はルチアの依り代となっていた。
「チアルムが一緒に寝なくなったのは寂しいけど、君と2人で過ごせる時間は嬉しいよ」
「そうね。貴方の宿主が奥手過ぎて少しもどかしいけど」
カエルムとルチアが表層意識に出ている間、トオヤとアイオは深層意識で眠っている。
愛を誓った伴侶とベッドの中で2人きりの時間となれば、夜の営みに入りそうなところだが。
まだそういう行為に及んでいない宿主たちに遠慮して、夫婦は添い寝と家族のキス程度に抑えていた。
「地球人は同性婚をするそうだけど、夜はどんなふうにするんだろうね?」
「アルビレオのデータにあるけど、トオヤは見ようとしないみたいね」
夫婦の宿主はどちらも男性で、異性婚しか知らない翼人たちには謎が多かった。
夜の営みに進まない理由には、やり方が分からないからなんていう初心な事情もあったりする。
「女の子の端末が増えたから、そちらに入った方がいいかしら?」
「あの子は今も恋愛対象として見られていないようだよ」
「端末に加わって随分経つけれど、相変わらず妹扱いになってるのね」
女性型人工生命体セラフィにも入ることは出来るが、ルチアはいつもアイオを依り代に選ぶ。
それは夫カエルムを宿すトオヤの認識を考慮してのこと。
トオヤにとってセラフィは妹のような存在で、恋愛対象として見ていなかった。
では、アイオは?
パートナーという認識なのは本人も自覚している。
失いたくない人。
かけがえのない大切な人。
トオヤは間違いなく、アイオを特別な相手として見ている。
しかし、第二次性徴が発現し始める思春期前、精巣が未発育のうちに切除されたトオヤは、生殖機能を持つ男性とは恋愛の感覚が違っていた。
「まあ、気長に待てばいいさ」
「そうね、不老不死だもの」
既にチアルムという子孫を得ている夫婦に焦りは無い。
今夜も性行為には及ばずに寄り添うカエルムとルチアであった。
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