第79話:艦内美容室

 不老不死になってから、髪や爪が伸びなくなった。

 細胞の在り方が変わったのかな?

 髪は切ると短いままなのかと思ったら、カットした分だけ伸びて元通りになる。

 異星に降りた時に木の枝などで引っ掻いたりして身体が傷付いても、すぐに修復されて傷跡も残らない。

 それはアルビレオの端末になっている2人の人工生命体、アイオとセラフィも同じだ。


 だけど、他の乗組員たちは髪や爪が伸びる。

 伸びた髪は手先の器用なメンバーがカットしてくれるんだけど、せっかくだから専用の設備が欲しいという、主に女性陣からのリクエストで、艦内設備に美容室が加わった。

 ここまでくると、もう宇宙船というより移動するコロニーみたいだよ。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「これが地球文明の美容設備ですか」

「とても使いやすくて良いものですね」


 セラフィ付きのアンドロイド侍女たちが、高く評価する設備。

 女性陣待望の美容室は、花園カフェ付近に設置された。

 ゆったりした生活の女性乗組員たちは、自らを磨くことを楽しむ。

 美容室は髪だけでなく、肌なども美しく整えるエステサロンも兼ねている。

 以前は簡易的な個室でしていた着付けも、美容室で出来るようになり、侍女たちが専属スタッフとなった。


「コロニーに住んでいた頃よりも肌質が良くなったわ」

「髪質がボサボサゴワゴワだったのに、サラサラツヤツヤに変わったのよ

「最近、ウエストが引き締まってきたみたい」


 そんなことを話す女性乗組員たちは、明らかに肌や髪やスタイルが良くなっている。

 ドレスを着てティータイムを楽しむ様子は、もはや宇宙飛行士というより貴族の令嬢のようだ。

 地球の便利な設備、アルビレオの製造機能で作られる良質な化粧品類、リベルタスの王宮侍女たちの美容技術が集結した結果は、彼女たちを見れば明らかだった。


 現在、アルビレオの運行に関わっている地球人、つまりコールドスリープに入っていないコロニー出身者は、卵巣や精巣を摘出されているので、恋愛や結婚は趣味の範囲内でのことである。

 仕事に関しては男女平等はもちろん、出産や育児が無いので定年退職まで働き続ける。

 軍事コロニー【ベネトナシュ】育ちの彼女たちは、アルビレオの乗組員になるまでこんな風に着飾ったこともなければ、優雅なティータイムを楽しんだこともなかった。


「宇宙に出られるから乗組員に志願したけど、こんなにユルイ生活だとは予想外だったわ」

「美容と健康にいい宇宙船に乗るとは思ってもみなかったよね」

「宇宙スローライフってこういうのを言うのかも?」


 スミレに似た花の砂糖漬けとダージリン系の紅茶を味わいながら、貴婦人と化した女性宇宙飛行士たちはそんなことを話していた。

 もしもコロニー時代の彼女たちしか知らない人が今の姿を見たら、別人かと思うかもしれない。

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