第78話:艦内トイレ
太陽系を出た時のアルビレオ乗組員は、アイオ以外みんな地球人だった。
乗組員に合わせて設備をカスタマイズ出来るアルビレオ号のトイレは、地球人に合わせたウォシュレット式だ。
旅立ち前にコロニーでしばらく生活したアイオはそれに慣れているけれど、異星人には馴染みのないものだそうで、後から加わった子供たちの反応は様々。
最初に加わった異星人のカールは、後から入ってくる子が驚く様子を面白がってるよ。
一方、フェレス族の子供たちは、ウォシュレットとは別に必要なものがあるらしい。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「にゃっ!」
自室のトイレで、マヤはうっかり野生の声が出てしまう。
見えないところから温水の水鉄砲みたいなものが飛んできて、尻に当たるのにはビックリする。
いずれ慣れるだろうと思いつつ、シッポを膨らませながら耐えるマヤであった。
「砂が無いと、どうも落ち着かないんだよなぁ」
「そうだね~、なんか足りない感じだよね」
農作業をしながら、マヤとニイはそんなことを話す。
フェレス族には、排泄物に土や砂をかける習性がある。
それは、誰かに教わらなくても出来る、彼等が生まれつき持っている本能によるもの。
「よし、かあちゃんにお願いしよう」
「うん、そうしよう」
どうしても砂がかけたいフェレス族の子供たちは、アイオにトイレ用の砂をリクエストしに行く。
艦内は上下水道完備で、下水は処理設備に送られて、バクテリアなどの微生物に汚れを食べさせた後、浄化された水は農業用水に、沈殿させた汚泥は有機肥料に加工される。
マヤとニイは農園担当なので、その仕組みを把握していた。
土や砂なら農園にあるが、それを水洗トイレに流してはいけないことも知っている。
「それなら、地球文明の産物に、ちょうどいいものがありますよ」
猫耳とシッポが可愛い子供たちのリクエストを、アイオは快諾した。
地球人の文明が進む様子を観察し続けたアルビレオには、地球人が使っていた様々なもののデータが残っている。
「はい、これならトイレに流してもいいですよ」
「これ、普通の砂に見えるけど、何か違うの?」
すぐに用意されたトイレ用の砂を受け取る子供たちは、一見普通の砂に見えるそれが、なぜ水洗トイレに流していいのか不思議に思った。
普通の砂だと下水管を上手く流れず、途中で詰まってしまう。
「この砂は植物由来の原料で、水に溶けて流れるんですよ」
アイオが説明するそれは、20世紀頃から地球に存在し、コロニーでも使われていた【猫砂】。
その中でも、水洗トイレに流す事に特化した、水に濡れると崩れて細かくなるタイプである。
本来は、スノコ状の板で上部と下部を分けられた、システムトイレと呼ばれる猫トイレ容器に入れて使う。
猫がシッコをすると、濡れた部分だけが細かく崩れてスノコを通過し、下部のトレーに落ちる。
落ちた砂は、水洗トイレでの処理が可能だ。
「かあちゃん凄い!」
「地球文明の品ですよ」
「地球文明凄い!」
感動するベスティア星人の子供たちの中で、地球文明の評価が大幅に上がった。
以降、フェレス族の子供たちのトイレに、猫砂が用意されるようになった。
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