第47話:スープとお風呂

ネズミに似た獣人は、ムスラト族という少数民族で、成人でも子供のように小柄なのが特徴だ。

マヤたち猫耳族の正式な種族名はフェレス族といい、ムスラト族とは敵対関係にあったらしい。

即死はしなかったものの、重傷を負っていたムスラト族の男は、僕が話しかけても喋る事は無く、やがて息絶えた。

歯の裏側に仕込んでいた毒を使ったのは気付いていたけど、僕は止めなかった。

彼は黙秘し続けたつもりだろうね。

悪いけど情報は読み取らせてもらったよ。

今回の襲撃は、政府の討伐令によるものではなく、街の人々からの依頼でもなく、ムスラト族独自の行動だった。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「ここにいるとまた襲撃されそうだから、アルビレオに行こう」


小屋に戻って来たトオヤの言葉に、アイオと子供たちが頷く。

皆を転送した艦内プレイルーム付近には、既に山猫団メンバーの部屋が用意されていた。


「……ここは……?」

「ニアのために用意した部屋ですよ」


トオヤに抱えられ、新しいベッドに寝かされたニアは、しばらくすると目を覚まして起き上がる。

付き添うアイオが微笑んで答えると、部屋の給水機からコップに水を汲んで、ニアに差し出した。


「ニアは、ここに住んでくれますか?」

「私、ここにいてもいいの? 他の子は?」

「オイラたちも一緒だよ」


アイオの問いかけに、ニアが聞き返す。

その問いには、スープを運んできたマヤが答えた。


「ここのゴハン最高だよ。オイラ、ここに住みたい」

「このスープおいしいよ、飲んでみて」


マヤはベッドの上に座っているニアに、スープの入ったマグカップを差し出して言う。

一緒に来たナオも笑顔で言った。

ニアが渡されたスープは、トロリとしたクリーミーなポタージュで、火傷せずに飲める温度に調整されている。


「……美味しい」


マグカップを口元へ運んでスープを一口飲み、染み渡る温かさと美味しさに、ニアが感嘆の溜息をついて言う。

それは街の屋台で売られているものを、アイオが気に入り再現した豆のポタージュ。

庶民の味だが、山猫団メンバーは飲んだ事が無い。

彼らがいつも口にしていたのは、掴んで走って逃げやすいパンや干し肉、森の木の実くらいだった。



一方、生き埋めにされていたニイとミイは、ティオとレシカ夫婦にお風呂に入れてもらっていた。

男女の双子なので大浴場に一緒に入れるわけにもいかず、家族風呂を設置している夫婦のところで入浴させてもらっている。


「凄い、お湯がこんなにいっぱいある~」

「お湯で身体を洗うのは初めてか?」

「うん! いつも川の水だったよ」


感動する少年ニイを洗うのはティオ。

生まれてすぐ親を亡くした少年は、産湯も浸かったかどうか分からない。


「あったか~い」

「お風呂、気に入った?」

「うん! お湯もレシカも温かくて好き」


既に身体を洗い終えた少女ミイは、レシカと一緒にお湯に浸かっていた。

抱きついて甘えてくるミイを、レシカは優しく抱き締める。

母の顔も分からない少女は、大人の女性レシカに母への想いを重ねていた。



子供たちが艦内でお腹と心を満たされて眠る頃。

トオヤはアルビレオのAIに作らせた物を手にしていた。


「大丈夫なのは分ってますけど、お気をつけて」

「うん、やりすぎないように気をつけるよ」


艦長室でアイオと小声で話した後、トオヤは単身で瞬間移動テレポートした。

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