第48話:作られたウイルス
移民団は基本的に異星の戦争や種族間の争いには干渉しない。
フェレス族の生き残りの子供たちを襲撃してきたムスラト族に、移民団としては爆弾を跳ね返しただけ。
でも、僕個人としては別だ。
ムスラト族の男から読み取った情報は、あまりにも卑劣で怒りを覚えた。
それは僕とアイオ及びアルビレオAIだけに留めて、子供たちには話していない。
あの子たちには、憎しみや恨みの感情で心を翳らせてほしくないから。
だから僕は、子供たちが眠っている間に行動する事にした。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「……な……何……」
「こ、こんな変異は、組み込んでいないぞ」
困惑の表情を浮かべて、次々に斃れてゆく人々。
地下に造られた集落、ムスラト族の村に異変が起きる。
感染から数分で死に至るウイルスが、村人の中に広がっていた。
『それは、ムスラト族の成人以外には無害に作ってあります』
アイオの説明を受けたトオヤは、アルビレオが作ったウイルスを地下集落に投げ込んだ。
空気感染するウイルスは、地下という環境では特に広まるのが早い。
ムスラト族は細菌やカビやウイルスの研究が進んでいて、集落には人為的にウイルスを作り出す施設もある。
そんな彼等でも、何も出来ないまま死に絶えていった。
ウイルス兵器。
フェレス族は、ムスラト族が作ったウイルスに襲われた。
元々あるものに突然変異を誘導して作られたウイルスに、知識の無いフェレス族は抗えない。
それは実験であり、敵対部族を衰退させる目的もあった。
結果、死に至るウイルスに滅ぼされ、フェレス族はもうマヤたちしか残っていない。
自害した襲撃者からその情報を読み取ったトオヤは、あくまでも個人的な判断と行動でフェレス族に代わって報復を実行している。
(次の標的は、あの街の人たちだったのか……)
紙の束を手に取り、トオヤは心の中で呟く。
傍らに倒れたネズミ型の獣人は、既に事切れていた。
フェレス族のウイルスを作った男の机には、新たなウイルスの予定資料がある。
研究施設には、次の計画に使われる筈だったウイルスが保管されていた。
(あの街を守る予定は無かったけど、まあいいか)
保存容器に入れられたウイルスに、トオヤはサイキック化した消去プログラムを使う。
施設のウイルスを消去した後、彼はその建物を分解し粉々にした。
ムスラト族の未成年者は存命で、今回の事を研究施設の事故によるものと誤認している。
ウイルスの怖さを感じた彼等は、後にウイルス兵器を使う事は無かった。
意図せずに、彼は死のウイルスから街の人々を守る結果となった。
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