第32話:虚ろな心
ライカが渓流で見つけた少年は、頭以外にも打撲系の傷を負っていた。
高い所から滑落して岩に激突したのかもしれない。
骨折も数ヶ所あり、
肺の中に水が入らなかったのは幸いだったと思う。
渓流の水に浸かって身体が冷え切っていたので、アルビレオに連れ帰った。
濡れた服はすぐ脱がせて、お風呂で温めれば回復するかな?
大浴場に直行したらアイオがバスタオルと着替えを持って来てくれた。
カールとチアルムも来て興味津々だったので、みんな一緒にお風呂行きだ。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「ねえねえ、この子どうしたの?」
「川の中に倒れてたから保護したんだよ」
大浴場で一緒にお湯に浸かりながら、子供たちは少年を覗き込む。
少年はぼんやりした様子で、トオヤに身体を預けていた。
自分で身体を動かそうとしないので、衣服はトオヤが脱がせて浴槽まで抱いて運んだ。
「髪の色、おかあさんと一緒だね」
チアルムがそう言いながら、トオヤの隣で湯に浸かっているアイオの長い銀髪の先を手に乗せて、少年の髪に近付ける。
その髪色は、同じ銀色だった。
「瞳の色はチアルムと同じだね」
アイオは微笑んで少年の頬に触れるが、何も反応は無かった。
少年は話しかけても触れてもボーッとしている。
その空色の瞳は、何も映していないように見えた。
「この子もトオヤたちの子になるの?」
「え? いや、まだ孤児かどうかわからないよ」
カールはトオヤが拾った子は養子になると思っているらしい。
トオヤは苦笑して言うが、当の本人、銀髪の少年は相変わらずボーッとしたままだった。
「この子、目を開けたまま寝てるの?」
「全然動かないね」
子供たちがトオヤの両側から少年の顔をじ~っと見つめる。
少年の目は虚ろで、感情が見えない。
支えてないと座っていられない身体は、まるで人形か何かのようだった。
「身体の傷は治ってますが、精神に何か不具合が起きているようですね」
「渓流に落ちる前に、何かあったかもしれないな」
風呂で温まった後、トオヤとアイオは少年を医務室へ運んで調べてみた。
服を着せても、医務室のベッドに寝かせても、少年は無抵抗でされるがまま。
アイオとトオヤが話していると、狩りを終えたライカが入って来た。
「あの森の近くに民家はありませんでした」
「という事は、付近の住民というわけではないんだね」
ライカが伝える情報は、少年の謎を増やすだけ。
ベッドに寝かせた少年は、目を閉じて眠ったように見えた。
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