第33話:メンタルケア
アルビレオの医務室には、惑星アエテルヌムの高度な医療設備が揃っている。
マインドチェックの結果、保護した少年はメンタルに強いダメージを受けて心を閉ざしている事が分った。
現実として受け入れられない辛い経験をしたせいで、精神が外部からの情報を遮断している状態。
年齢は分からないけれど、一体どれほど過酷な出来事があったんだろう?
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「アニムス、聞こえる? 君の名前だよ」
「僕が歌ってあげるから、元気出して」
プレイルームの柔らかいマットの上に座り、カールとチアルムが優しく話しかけている。
心を閉ざした少年は、ボーッとしながらマットの上に座っていた。
保護直後は身体が麻痺していたが、風呂で温めたりマッサージしたりした結果、今では動くようになっている。
ミカルド星の少年は、名前が無いと不便なので、アニムスと名付けられた。
メンタルのダメージは、翼人のヒーリングボイスで癒せるかもしれないという医療システムの診断で、チアルムが毎日歌を聴かせている。
「お昼ごはんですよ」
アイオは3人の子供たちの食事を手に、プレイルームを訪れた。
トオヤは調査隊と共に、ミカルド星の住民調査に出ている。
アルビレオに残る過去の住民データによれば、この星の文明は中程度で、宇宙船を造って大気圏外に出られるくらいの技術があった。
「アニムス、ごはんだよ」
「はい、あーんして」
カールとチアルムが声をかけながら頬を指先でつつくと、アニムスはぼんやりしながらも口を開けた。
そこへポイッと放り込むのは、アニムス用に作った栄養食。
グミのような食感で、口に入ると液状に変わって飲み込み易くなる。
アニムスは植物状態というわけではなく、多少は他からの刺激に反応しており、食べ物が口に入ればモグモグと咀嚼して飲み込む事が出来た。
しかし、パンなどを手に持たせても、口に運ぶには至らない。
「これは食べ物だよ」
「食べてみて」
子供たちは、アニムスが手にしたパンを食べ物として認識するように、パンを持たせた手を補助して口元へ運ばせる。
匂いに反応して口を開けたアニムスは、補助してもらいながらパンを食べ終えた。
食べた後はボーッとしていて、チアルムが手や口元を拭いても無反応だった。
「そろそろトイレかな?」
食事を終えてしばらくするとカールが声をかけ、アニムスの手を引いてプレイルームのトイレに連れて行く。
排泄の欲求もあるらしく、カールは精神感応でそのタイミングを察知してトイレに誘導していた。
手を引かれて大人しくついて歩く少年は、便座に座らせれば自力排泄が出来る。
アルビレオのトイレは地球人に合わせたウォシュレット式で、機械が洗浄も乾燥もしっかり済ませるので、それほど手はかからなかった。
日没近い夕方。
その日の調査を終えて帰還したトオヤとライカは、アイオと子供たちがいるプレイルームを訪れた。
「ただいま」
トオヤは声をかけて、入口へ出迎えに来たアイオとチアルムとカールの頬に家族のキスをした後、ボンヤリした顔で座ったままのアニムスに歩み寄り、同様にハグとキスをした。
アニムスは人形のように無反応でされるがままだが、トオヤは他の子供たちと同じく愛情を注いで接している。
「情報更新お願いします。アルビレオの過去データにあった村が、1つ消えていました」
ライカがアイオに報告する。
調査隊はアルビレオの過去データを元に住民調査をしていたが、最初に狩りをした森の近くにある筈の村が無くなっていた。
「消えていた? 廃墟になってるんですか?」
「いえ、村そのものが消えて、大きな爆発があったようなクレーターが出来ていました」
アイオと話しながら、ライカは調査隊が撮影してきた画像や動画を送信した。
そこに写っていたのは、建物も木々も吹き飛んで消滅したような、円形に窪んだ地形。
それは、隕石の衝突によるものとは少し違って見えた。
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