第30話:星空へ羽ばたく白い翼

白い翼の人々が、黒い翼の人々に戦争を仕掛けた。

異星人である僕たち移民団は介入せず、戦乱に巻き込まれないように惑星から旅立った。

惑星アーラよりも高度な文明を持つ惑星アエテルヌムの兵器を提供すれば、翼人側の圧勝は間違いないかもしれない。

アルビレオの主砲を最大威力で撃てば、吸血族の都市は1発で消滅するだろう。

でも僕たちは、戦争する為に旅をしているわけじゃない。

強過ぎる兵器は惑星を滅ぼす事を、僕たちコロニー育ちの地球人はよく知ってる。

だからアルビレオ号は、攫われた人々の救出と亡くなった人々の弔いを済ませた後、そっと宇宙へ飛び立った。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「おかあさん、おやすみの歌を聴かせて」


艦長室に隣接するトオヤとアイオの居室で、ベッドに入ったチアルムがおねだりする。

おかあさんと呼ばれるアイオは、養い子の可愛い頼みに応じて微笑むと、ベッドに腰掛けてルチアの思念と交代した。

耳に心地よく流れ込む柔らかな歌声で、ルチアは子守唄を歌う。

翼人の【歌の継承】は父親がするけれど、母親も継承能力は無いものの歌う事は出来る。

ルチアは、自身の父から貰った歌を持っていた。

それを今、子守唄として我が子に聴かせられる事に、彼女は幸せを感じる。

翼人としての肉体は失ったけれど、人工生命体の肉体を借りて歌える事、我が子に触れられる事が、ルチアには嬉しかった。


「おやすみ。私の可愛い子」


子守唄を聴いて、気持ち良さそうに眠りに落ちたチアルムの額に、アイオの身体を借りたルチアは優しくキスをする。


「ルチアの歌は、春の陽だまりみたいに優しくて暖かいね」


隣の艦長室から入ってきたトオヤが、チアルムを起こさないように小さな声で言う。

彼もベッドに腰掛けると、カエルムの思念と交代した。


「おやすみ、チアルム」


カエルムも微笑み、我が子の額にキスをした。

それからベッドの中に入り、チアルムに添い寝する形で横になった。

反対側のベッドサイドからルチアもベッドの中に入り、同じく我が子に添い寝した。

親子3人で過ごせるこの時間帯を、トオヤとアイオはカエルムとルチアに譲っている。

夫婦は我が子を間に挟んでベッドに入り、穏やかで幸せな時間を過ごす事が出来ていた。



艦長トオヤの養子となったチアルムは、トオヤを「おとうさん」、端末アイオを「おかあさん」と呼び、共に宇宙へ旅立つ。

チアルムの両親は翼人としての肉体を失ったけれど、トオヤとアイオに宿る事で我が子と暮らす喜びを得たのだった。

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