第16話:移民と救済

母なる惑星ほしに住めなくなる哀しさを、僕たちはよく知ってる。

巨大隕石群の飛来で滅びるというアクウァの民は、子供たちの命と未来を僕たちに託すという。

アルビレオ号は定員に余裕があるので、大人も何人か移民に加わってはどうかと提案してみた。

けれど、全員は乗れない事や住み慣れた海への愛着が強い事から、ルウカ様も含めて大人は全員アクウァに残るとの返事だった。

アクウァの大人たちは死を覚悟している。

移民以外に、何か出来る事は無いだろうか?

僕はアルビレオ号のデータを調べてみた。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「トオヤ」

「ん?」


艦長室で精神感応テレパシーを使ってアルビレオ号にアクセスしていたトオヤは、アイオの声に振り返った。


「はい、あーんして」


と言われて口を開けると、そこへチョコレートが放り込まれる。


「ん、美味い」

「脳を酷使する時は甘味がいちばんですよ」


モグモグする青年トオヤに、世話役みたいな少年アイオが微笑む。

見た目の年齢と立場が逆転したような関係は、1年近くなった付き合いですっかり定着してしまっていた。


「トオヤは、アクウァを隕石群の災害から救えないか考えてるんですね」

「うん。子供たちの受け入れは承諾したけど、出来れば災害を回避させたい」


アイオは一休みしてもらうため、艦長室のコーヒーメーカーを使ってコーヒーを淹れると、ミルクチョコレートを添えてテーブルに置く。

トオヤは甘味と共に味わう際はブラックを好むので、砂糖やミルクは添えずに差し出した。


「とりあえず、ちょっと脳を休めて下さい」

「ありがとう」


コーヒーとチョコレートで一休みした後、トオヤは再びアルビレオ号が持つデータを調べる。

長い旅の途中で戦闘に巻き込まれる事も想定されている宇宙船には、自衛用の兵器も備えられている。


「アイオ、この宇宙船ふねの兵器で隕石を粉砕出来るかな?」

「物理的には可能、あとは使用者の技術面の問題だと思います」

「つまり、当てられるか否かって事だね」

「トオヤの技術と能力なら可能、他には射撃に長けたメンバーであれば当たると思われます」


アイオとの会話を通して、トオヤは次第に考えがまとまってゆく。

ルウカ王からは、充分過ぎるほどの物資を提供してもらっている。

何か出来る事があれば最善を尽くしたいと思うトオヤは、飛来する隕石群を砕いてしまう作戦に出る事にした。

更に保険として、もう1つ対策を考えていた。



「ベガ、頼みがある」

「ん? なんだ?」 


それからトオヤは、ベガに作戦を話して頼み事をする。

その後ベガに同行してもらい、再びルウカ王の元へ向かった。


「物資の搬入は終わりましたか?」

「はい、アクウァの皆様に感謝申し上げます」


ルウカの表情は穏やかだった。

物資と共に、子供たちは既にアルビレオの中にいる。

全滅せずに済む事を安堵している様子だ。


「では、1日も早く離脱して下さい。この平和はあと半月で終わります」

「いえ、やりたい事が出来ましたので、あと半月滞在させて下さい」

「?!」


穏やかに話すルウカは、対するトオヤの言葉に驚いた。


「いけません、早く逃げて下さい」

「いえ、僕たちは逃げません」

「何故? 私たちと共に滅びる気ですか?」

「滅びるつもりもありません」


落ち着いた様子で答えるトオヤに、ルウカはしばし困惑した。

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