第13話:お風呂がある宇宙船

アルビレオ号は僕の好みに合わせてカスタマイズされたみたいで、僕が欲しい設備が揃っている。

たとえばお風呂。

コロニーでは窮屈なシャワールームしかなかったけど、今は大浴場で手足を伸ばしてゆっくりお湯に浸かる事が出来るのが嬉しい。

更に嬉しい事に、天井が巨大スクリーンになっていて、メインカメラからの風景が映し出される。

星空を見ながらお風呂に入れるなんて最高だよ。

お風呂のお湯は絶えず循環させて、濾過することで水の汚れを取り除き、常に清潔な澄んだ状態を保っている。

光エネルギーで稼働するヒーターが温度を一定に保ってくれるから、好きな時間に入浴が可能だ。

大浴場は男湯と女湯に分かれているんだけど、たまに酔っぱらった男性乗組員が女湯に迷い込んで、手桶で殴られているよ。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




従者のようにトオヤに付き従うアイオは、大浴場にも勿論ついてゆく。

コロニー暮らしの間は出来なかった事が出来て嬉しいのは、アイオも同じ。


「トオヤ、背中流しますよ」

「う、うん」


洗い場で椅子に座ったトオヤの背中を、アイオが石鹸をつけたタオルを手に洗い始める。

トオヤは拒絶したりはせず、大人しく洗われ始める。

その様子は、メイドが御主人様の入浴のお世話をしているように見えた。


「アイオって見た目は子供なのに、世話焼きだよねぇ」


ティオがお湯に浸かりながら、そんな事を言う。

彼はレシカと恋人同士で、2人の部屋には一緒に入れる風呂を付けてもらっていた。

たまに広い風呂に入りたくなると、こちらに来ている。


「見た目は子供ですけど、中身は万単位の歳ですよ」

「童顔とかいうレベルじゃないね……」


ティオの方を見て、クスッと笑うアイオ。

とんでもない長命と分かり、ティオの顔が少し引きつった。


「トオヤもこれから、そのぐらいの時を生きるんですよ」

「そ、そうらしいね」


背中を洗い終えたアイオが、トオヤの前に移動して微笑みながら顔を見上げる。

そのまま前も洗い始めるので、トオヤが少々照れていた。

旅を開始してから毎日こうして洗われているものの、そう簡単に慣れるものではない。

しかしアイオが自分で身体を洗い始めると、そのタオルを受け取って背中を流してあげたりする。


(……相思相愛だね~……)


そんな2人を横目でチラッと見た後、ティオは天井の星空を眺めていた。


一方、女湯では何度目かの騒ぎが起きている。


「また来た! この酔っ払いめ!」


ガコーン! と手桶で頭を殴る音がする。

酔っ払いのオッサン宇宙飛行士が、また女湯を覗いたらしい。


(……あっちは完全片思いだね~……)


星空を眺めつつ、ティオが苦笑する。

オッサンは女湯を覗こうとしたけれど、脱衣所で阻止されたらしい。


「トオヤ、なぜベガはいつもお風呂を間違えるんですか?」

「それはね、大人の事情というやつだよ」


不思議そうに聞くアイオは、その辺りはまだ子供っぽい。

トオヤは苦笑しつつ無難に答えておいた。

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