第12話:惑星ウェントゥス

僕たちが最初に降りたのは、ウェントゥスという惑星だった。

アルビレオ号が発見した頃は、知的生命体はいなかったらしい。

といってもその情報は、地球人が「大地は不動で太陽や月や星がその上を回っている」なんて説を信じていたような時代以前の事だから、今はかなり変わっていると思う。

僕たちは数人ずつのグループに分かれて小型艇に乗り、調査のために地上へ降りていった。

船の留守番役にはパウア師匠と数人が残ってくれた。

未知の環境だけど、僕たち宇宙飛行士には、異星の環境にも適応できる【最適化オプティマイズ】が施されているので問題無い。

アイオは僕が適応した環境に【同期】する事で適応出来るらしい。

地上には恐竜に似た生物がいたので、肉を確保するため狩る事にした。

アルビレオのマニュアルによれば、僕にはアエテルヌムのサイキックが付与されているらしいので、狩りついでに試してみよう。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より



「お~、でけぇな」

「歯が凶悪……」


ベガとティオが異星の恐竜みたいな生物を眺めて言う。


「太古の地球上に存在したティラノサウルスに似ているようです」


地球の生物データを登録されているライカが言った。

テンゲ博士はライカに様々な地球の生き物の情報を与えていて、恐竜図鑑のデータも入っている。


トオヤが操縦を担う小型艇は、ティラノもどきのシッポや爪の攻撃が届かない位置を保ちつつ様子を伺う。

しかしそこは異星の生物、地球の恐竜とは異なる攻撃を放ってきた。


グワッと開かれた大きな口から、カメレオンのように舌が伸びてくる。


「うわっ!」

「そうくる?!」


一同が乗る小型艇がそれを回避出来たのは、トオヤが事前に危険を察知して回避動作をとったから。

その直感的な予知のようなものは、アルビレオの所有者に与えられる能力の1つ。

それが無ければ、18歳で宇宙船の操縦経験が浅いトオヤに出来る芸当ではない。


「よく避けたなトオヤ」


ベガが冷や汗をかきつつ言う。

超感覚的知覚、昔の地球ではExtrasensory Perceptionとも呼ばれた力。

五感や論理的な類推などの通常の知覚手段を用いずに外界に関する情報を得る能力。

トオヤはサイキックの1つとしてそれを得ていた。


「目玉を動かした後に舌が出てくるみたいです。ベガの反射攻撃後、ティオとレシカが左右のレーザー砲を放って下さい」


ティラノもどきを観察していたアイオが言い、3人がそれに従って行動に入る。


一旦上空へ退避していた小型艇を、トオヤが挑発するようにティラノもどきに近付ける。

凶悪そうな目玉がギョロッと動いたタイミングで、ベガのサイキック【反射攻撃】が発動した。

高速で伸ばした舌が反射され、あろうことかティラノもどきの眉間を直撃!

ありえない事に動揺する間も無く、ティラノもどきに小型艇の左右の翼からレーザー砲が浴びせられる。


「目標の生命反応、消えました」


探知能力でティラノもどきの生死を確認したライカが告げる。


「……で、あれをどうやって回収するんだ?」


ベガが巨大な獲物を見下ろしてツッコむ。


「それはみんなで解体して運ぶしかないね」


トオヤが苦笑しつつ答えた。


「解体ならボクも出来ますよ」


ニコニコしながら言うアイオ。

ライカ以外の一同が、【血濡れの包丁を手にする美少年】というシュールな姿を想像して微妙な気持ちになる。


「……アイオ、君は手を汚さないでくれ。色んな意味で」


トオヤはアイオの両肩に手を置いて、苦笑しつつお願いした。

キョトンと首を傾げるアイオは、お願いされた理由を分っていない。


結局、ティラノもどきの解体はベガをメインにティオが手伝って進められた。

アイオは手伝おうとしたが、トオヤが止めた。

レシカは切り分けられた肉を保存袋に詰め、ライカはその袋を小型艇の格納庫へ運ぶ。


「今夜はステーキを作りましょうか」


アイオは笑顔で言うが、解体したばかりのベガとティオは当分肉は見たくない気分だった。



ウェントゥスでは大量の恐竜もどき肉、水、シダに似た植物が補給物資となった。

トオヤたちが獲ってきたティラノもどきが大当たりの食材で、赤身に脂肪が混ざり込んだ肉は柔らかく、ステーキにすると和牛の霜降り肉のような味わいで、乗組員大絶賛の美味しさだった。

解体直後はうんざりしていたベガとティオも、空腹になったらケロリと忘れてステーキに食らいつく。


「うめえ!」

「ステーキ最高!」

「解体した時はあんなにうんざりしてたのにね」


ガツガツ食べる2人を、レシカが苦笑しながら眺めていた。

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