第9話:アルビレオ号の所有者

月地下で長い時を過ごした宇宙船アルビレオ号は、経年劣化で故障している機能がいくつかあった。

トオヤという主を得たアルビレオは、自己修復機能が回復し、他の機能も次々に回復させてゆく。

機能回復の情報は、端末アイオにも共有されていた。


月地下、アルビレオ船内。


「セキュリティは復旧していますが、トオヤは所有者登録されているので攻撃されません」


アイオが言うように、通路を歩いていても、どこに触れても、セキュリティマシンは反応しなかった。

アルビレオ号の修復が完了したとの事で、トオヤは再び船内を訪れている。

2人の出会いの場所は情報管理室で、様々な資料が保管されていた。


「あの日、トオヤがこれに触れてくれたから、今こうして一緒にいられるんですね」

「僕は戦闘員としてここに来ていたから、本来は触れない筈だったんだけどね」


空になった生命維持カプセルの蓋に触れながら、2人は初対面の時を思い返す。

トオヤが戦闘班で先に突入していたからこそ、今があるといえる。


「ボクはこれを【運命】だと思っています」


アイオは微笑んでそう言った。



「全ての機能が回復したので、トオヤにマニュアルをお渡しします」

「……なんだか未知の機能が多そうだけど、僕に覚えられるかな?」


アイオに言われて、長い説明書を読む事を予想していたトオヤ。

異星人が作ったマニュアルは、情報の伝え方が根本的に違った。


「大丈夫です、眠ってる間に全て脳に入りますから」

「え?」

「こちらへ」


ニッコリ笑うアイオに手を引かれ、トオヤは隣接する小部屋へ案内される。

そこには、リクライニングチェアのような座り心地の良い長椅子があった。


「ここに座って眠るだけで、情報は脳に書き込まれますよ」

「地球文明の【睡眠学習】がもっと進化したようなものかな?」

「そんな感じです」


大体どんなものか理解したトオヤは、長椅子に座った。

座った者を眠らせる機能があるのか、強い睡魔に襲われる。

抵抗せずそのまま眠りに落ちたトオヤの頬を、アイオが微笑みながら撫でた。



探査船アルビレオの目的は、D因子を無効化する異星人や受精卵などを移民として連れ帰る事。

そのアルビレオの所有者となる者は、移民の中でも別格。

宇宙船と搭乗者たちを護る為、所有者となったトオヤには惑星アエテルヌムで開発された超能力サイキックが与えられる。

更にアルビレオとの【時間共有コムニタス】により、所有する宇宙船が存在する限り不老不死、トオヤは長い時代ときを生きる者となった。


「マザーアースは僕の身体の変化に気付いてたんだね」


睡眠学習の進化版のようなものを終えて目を覚ますと、トオヤは呟いた。

地球の生命を管理するマザーアースは、トオヤの寿命が途方もなく長いものになった事を感知していたのだろう。


結構な驚きの事実だが、トオヤは冷静だった。

超能力サイキックは今の地球人も持つものなので、それの強化版ぽいなと思う程度。

不老不死はさすがに驚くところだが、口頭で伝えられたものではなく脳に直接情報が書き込まれたので、驚く前に「管理者はそういうもの」として認識してしまっていた。

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