第10話:遥か遠い星を目指して

「この宇宙船の操縦は基本的にメインコンピューター【アルビレオ】が行いますが、端末アイオや所有者トオヤが操縦する事も可能です」


脳に書き込まれたマニュアルから操縦方法を覚えたトオヤは、早速試してみる事にした。

宇宙飛行士として地球の宇宙船なら既に操縦経験を持つ彼にとって、アルビレオの操縦方法は新鮮だった。


『偽装解除』


各機能は精神感応テレパシーによって起動する。

アルビレオ号は月地下の遺跡に偽装していたが、トオヤの精神感応に応じてそれを解除した。

地表を覆っていた岩や土が、まるで幻影であったかのように消えてゆく。

全貌を現した大型宇宙船は、大きな白鳥のような形をしていた。


『浮上』


トオヤが命じると、アルビレオ号は鳥が飛び立つように両翼を広げて浮かび上がる。

トオヤの感覚は宇宙船と同調し、自分の手足を動かすように翼や尾翼を操作して飛翔する事が出来た。


トオヤはアルビレオ号のメインカメラを使い、月と地球を撮影した。

アルビレオ号がある限り不老不死となった自分は、もしかしたらまたここへ来られるかもしれない。

けれど共に旅立つ人々の命は短く、片道だけになるだろう。

彼等がもう見られなくなる青い惑星ほしを、映像として残しておこう。

いつか生まれる子供たちにも見せてあげられるように。

トオヤは地球を撮影しながら、そんな事を思っていた。



半年後、移民団が宇宙へと旅立つ日。

トオヤは第一コロニー【ドゥーベ】の学者たちから、様々な種子と凍結受精卵を託された。


「地球上では絶滅してしまったこの子たちも、連れて行ってあげてほしい」

「この子たちが新たな居場所を得て花開き、駈け、羽ばたく事を願うよ」


願いを込められたそれを、トオヤは宝物のように受け取る。


「アエテルヌムの動物や植物もD因子のせいで絶滅しかけています。この子たちは多くの生命を救う力になってくれると思います」


トオヤの傍らからそれを見つめて、アイオが微笑んで言った。



月面に待機している巨大な白鳥のような宇宙船。

その胸元の扉が開き、氷か硝子のように透き通った階段が地面へと伸びる。

白鳥の頭部にある艦長室には、宇宙船の所有者になったトオヤが入った。


「アルビレオ号、発進!」


トオヤはメインコンピューターに命じる。

今を生きる命と、未来に生まれる命、多くの生命を乗せてアルビレオ号は飛び立つ。

星の海へと出航するその姿は、渡り鳥が旅立つようにも見えた。


「異星人が作ったコールドスリープ装置は初めてだけど、君たちを信じて眠らせてもらうよ」


アルビレオ号の格納庫、宇宙飛行士以外の移民たちはアエテルヌムの文明が作り出したコールドスリープ装置の中で長い眠りに就く。


「皆さんは私たちが護ります。安心して眠っていて下さい」


宇宙飛行士たちは、優しく声をかけながら装置の蓋を閉めて起動させてゆく。


白い鳥のような宇宙船は、地球に別れを告げるように旋回した後、遥か遠い惑星ほしを目指して旅立った。

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