第4話:宇宙船アルビレオ号

「とりあえず、これ着て」

「ありがとうございます」


トオヤはアイオが全裸なのが気になり、自分のジャケットを着せてあげた。

アイオはトオヤよりもかなり小柄なので、ジャケットはブカブカだが、今はそれが股間やお尻まで隠せるのでちょうどいい。


「遺跡かと思ってたけど、これは宇宙船ふねなのか……」

「はい。この宇宙船ふねの名はアルビレオ号、現在の所有者は貴方、トオヤ・ユージアライトです」


設備を見回すトオヤに、宇宙船の端末だという少年アイオが告げる。

月の地下遺跡と思われていたものは、異星人が造った大型宇宙船だった。


「この宇宙船ふねに関するデータはボクの中にも保存してあります。それらもトオヤが求めるなら情報を提供出来ますよ」


微笑むアイオの表情は、人工物とは思えないほど自然で、人間のように見える。


「君は異星人?」

「いえ、ボクはこの宇宙船ふねと共に作られたものです」


トオヤはアイオの長い髪を掻き分けて、隠れがちな頬に触れてみた。

キョトンとする顔があどけなくて愛らしい。

その銀髪も、白い頬も、普通の人間と同じ手触りだった。


「君を研究所へ連れて行く事は可能かな?」

「トオヤが許可し、同行するなら可能です」


学者からの問いに、アイオはそう答えるとトオヤの顔を見上げた。


「どうしますか? トオヤ」

「トオヤ君、お願いしてもいいかな?」

「いいですよ」


研究班からの依頼で、トオヤはアイオを連れて研究所へ行く事になった。

歩き出そうとして、ふと気付いたトオヤがアイオを抱き上げる。

アイオは裸足だった。


「アイオ、服や靴は持ってないの?」

「製造システムが故障しているので、今は用意出来ません」


聞いてみると、事前に用意した衣類や靴は無いらしい。


「足、怪我するから」


そう言うと、トオヤはアイオを抱いたまま歩き出す。


「これがお姫様抱っこですね。嬉しいです」


などと言ってトオヤの胸に頬を寄せて赤面するアイオは、感情の無い機械とは違う感じがした。

最初に抱きつかれた時も今も、その身体には人間と同じ温もりが感じられる。


「君は随分と感情豊かだね。異星人のアンドロイドはみんなこんな感じなの?」

「ボクを作った人々の星では、【心】の研究が進んでいるので、機械でもこれくらいの感情はありますよ」


トオヤは、皆の前方を歩くライカと腕の中で微笑むアイオを見比べた。

ライカは戦闘時など状況に応じて行動するけれど、感情らしきものは無い。

対するアイオは笑ったり顔を赤らめたり、まるで人間そのもののような表情をする。

アンドロイド系だとしたら、今のトオヤたちの文明には出来ない技術だ。


「それにしても地球人そっくりに出来てるね。機械の身体のゴツゴツした硬さが無い」

「それは多分、ボクが機械ではなく人工生命体だからだと思います」


アイオはアンドロイドではなく、人工生命体らしい。

更に驚く技術に、後ろで話を聞いている学者たちが目を見合わせた。

コロニーの技術では、クローンは作れても人工生命体はまだ作れなかった。

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