第5話:遥か遠い宇宙から

人工生命体の少年アイオは、第7コロニー・ベネトナシュの宇宙開発研究所に移送された。

そこに異星人が運び込まれた事は過去にもあったが、いずれも負傷・衰弱している者が多く、ほとんどが収容間もなく死亡していた。

今回は状態の良い、むしろ無傷とあって、所員たちはソワソワしながら到着を待っている。

アイオは異星人そのものではないけれど、異星人が作った知性を持つ貴重な存在として学者たちが調べるという。


そして到着した長い銀髪の少年は、待ちかねた人々を魅了した。


「綺麗な子……!」

「今まで見た異星人とは別格の容姿だな」


トオヤにお姫様抱っこされた状態で通路を進むアイオを見て、所員たちが感嘆の声を上げる。

容姿が整い過ぎているのは人工物ゆえか?

アイオに見惚れて放心状態になる者は男女問わずいた。



「トオヤ以外の方に触れられる事は拒否します」


研究室に入って検査を始める前、アイオはそう言って他人に触れられる事を拒んだ。

検査器具を手に近付こうとした所員を避けるように、診察台の上で身体を丸めて睨む。


「トオヤ君、検査器具の取り付けを頼むよ」


アイオの塩対応に苦笑しつつ、年配の研究員がトオヤに検査器具を差し出した。


「じゃあ、俺がやるから。それならいい?」

「はい」


トオヤが手にした検査器具を見せて言うと、アイオは即答して素直に横になる。

検査器具は片手で持てるハンディクリーナーに似た形状で、先端が特殊なカメラになっていた。

カメラの部分を身体に触れさせると、内部構造を撮影する。

操作は簡単なのでトオヤでも難なく撮影を済ませられた。


「これは……地球人とほぼ同じなのか……」


モニターに映し出された動画は、心臓も肺も消化器官その他も、地球人そのものだった。


「この身体は、核戦争以前に調べた地球人の身体構造をベースに作られています」

「つまり、そんな昔から異星人は地球に来てたって事?」

「いえ、アルビレオ号が単独で調査し作成しました」

「君の星の技術が高すぎて、学者でもついていけないみたいだよ」


驚き過ぎて苦笑しかないトオヤの背後で、学者たちが呆然としている。


地球の技術でも、核戦争以前の時代に無人探査機を飛ばすくらいは出来た。

しかし、調べたデータを使って何かを作り上げるなんて事は、今でも出来ない。


「アルビレオ号は、何の目的で月の地下に隠れているの?」


検査を終えたアイオにまたジャケットを着せてやりながら、トオヤは聞いた。

アイオが両腕を広げて抱きついてきたので、そのまま抱き上げる。


「地球人の中から、移民に適した者を確保する為ですよ」


返ってきた答えは、また想定外な内容だった。

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