第3話:作られた者

その装置が生命維持のためのものなら、中にいる者が存命でも不思議は無いのかもしれない。

トオヤに微笑みかける少年は、カプセルから出て床へと降り立った。

白い肌は淡く発光しているように見え、長い銀の髪も輝いて見える。

中性的な整った顔立ちで特に惹きつけられるのは、青紫色の双眸だった。


「初めましてトオヤ。ボクは端末アイオ、今日から貴方のものです」


親しみを込めて、アイオと名乗る少年がトオヤを抱き締める。

流暢な地球共通言語で告げる少年は、「端末」と告げる事から人というよりは人工的に作られたもののようだった。

細く白い両腕の抱擁を受けながら戸惑うトオヤの背後で、戦闘班メンバーも呆然としている。


「……どういう事? それに何故僕の名前を知ってるの?」

「貴方がボクの所有者になったという事です。貴方の名前は言語同期の過程で把握しました」


困惑して聞くトオヤは、返ってきた答えに更に困惑する。

何がどうしてそういう事になるのか? 少々理解に苦しむ。


「貴方はボクを見つけて最初に近付いた知的生命体、ボクはその所有者となるよう設定されています」

「……え? そんな早い者勝ちみたいな設定でいいの?」


疑問が解けない様子のトオヤに気付いたのか、アイオは説明を加える。

アンドロイドの類だろうか? と推測するトオヤはその設定に問題があるような気がした。


「悪用されたりする可能性は想定されてないの?」

「ボクを破壊する可能性があれば所有者とは認定しません。貴方は精神鑑定で異常はみられなかったので所有権を与えました」


言いながら、何故かアイオは両手でトオヤの頬に触れてじーっと見てくる。

2つの宝石みたいな青紫色の瞳に見つめられて、トオヤは戸惑う。


「それに、貴方の容姿は好ましいと感じましたから」

「……え?」


まるで人間のように頬を赤らめて何やら告白めいた事を言い出すアイオに、トオヤも釣られて赤面した。

直後、複数の人間が入って来る足音が聞こえる。


「こんなに保存状態が良い遺跡は珍しいな」

「見たことが無いデザインだけど、いつの時代のものだろう?」


そんな会話が聞こえてくる。


「……お、おいトオヤ、その子は一体……」


入ってきた研究班メンバーの1人が、トオヤの状況を見て声をかけた。

戦闘中には見えないから、後から来た人々の心に困惑はあっても恐怖は無い。


「……えっと……この中に入っていた子です」


そう答えたトオヤが横目で見るガラスの棺のようなそれに、5人の研究班メンバーも視線を向ける。


「近付いても問題無いか?」


研究班の学者の1人が問いかける。


「アイオ、研究班にここの設備を調べてもらうけど、いい?」

「ボクもこの宇宙船ふねも、トオヤのものです。貴方が許可するなら構いませんよ」


その会話は他の人々にも聞こえたので、トオヤだけでなくその場にいる一同が更に困惑してしまう。

トオヤに所有権が与えられた事よりも、それが遺跡ではなく宇宙船だという事の方に驚きが多かった。


「これ、宇宙船ふねなの?」

「はい」


問いの答えを聞いて、トオヤも人々も辺りを見回す。


「かなり状態が良いけど、これ動くの?」

「少しメンテナンスをすれば、動きますよ」


遺跡ではなく宇宙船ふねだとしたら、かなり大きな物だ。

そんなものが何故月の地下に埋まっていたのか?

いつからそこにあるのか?

トオヤも人々も困惑から好奇心へと意識が切り替わっていった。

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