第2話:月の地下遺跡

地球人類がコロニーに移住してから、幾つかの技術が飛躍的に発展した。

その1つが、酸素の無い過酷な気温の宇宙空間でも活動可能になる身体に調整する技術。

最適化オプティマイズ】と呼ばれるそれは、宇宙飛行士の資格を取る為に必須とされるもの。

これによってトオヤたち宇宙飛行士は、昔のように宇宙服を着る事なく宇宙や月面での活動が可能になっていた。



「戦闘班はセキュリティを潰してくれ。安全が確保されたら研究班が突入する」


体内に埋め込まれた脳波通信機に指示が届く。


探知を得意とする犬型アンドロイドのライカが、先頭を進みながらトラップを探す。

ライカの容姿は、核戦争以前から使役犬として使われてきたシェパードという犬種に似ている。


その後ろ、二番手を進むのは反射カウンター攻撃能力者のベガ。

彼は黒い肌に筋肉が盛り上がった頑丈そうな体格の持ち主で、任意の対象に防壁を張って敵からの攻撃をそのまま返して攻撃するという特殊能力を持っていた。


三番手はトオヤ。

彼は師匠から抜刀術と早撃ちの技術を伝授されていて、武器を構えていない状態から瞬時に攻撃する事を得意とする。

敵との距離に関係なく状況に応じて戦える事は、彼の強みとして研究所ラボではよく知られていた。


四・五番手を進むのが銃をメイン武器とするティオという男性と、レシカという女性。

どちらもまだ若く小柄で華奢、腕力は弱い代わりに遠くの小さな対象も撃ち抜く優れた命中率を誇る。



「飛行型、前方3体」


ライカが告げて、後方4人は身構えた。

敵を目視した瞬間、最初に1体を粉砕したのはトオヤの早撃ち攻撃。

2体目、3体目をティオとレシカが撃ち落とした。


「設置型、左右2体」


ライカが告げると、ベガが片手で何かを払うような動作をする。

透明な防壁が一同を包む。

そのまま進んで間もなく、左右の壁からレーザーが放たれる。

が、防壁に跳ね返されて発射装置を直撃、破壊した。


「歩兵型、前方1体。トオヤ協力求む」

「OK」


ライカとトオヤの連携。

前方に現れたのは、顔が無く、やや丸いフォルムの二足歩行マシン。

先にライカが瞬時に接近して足の片方を噛み砕き、歩兵がバランスを崩した瞬間にトオヤが斬撃を浴びせる。

人工知能が組み込まれていたと思われる頭部を大破して、歩兵マシンは沈黙した。



遺跡のセキュリティ攻略は、今回の戦闘メンバーにはそれほど難しくはなかった。

残りのセキュリティも破壊して、トオヤたちは遺跡の奥へ進む。


「こりゃ、かなり高度な文明だな」

「私の探索データにはまだ無い系統です」


ベガとライカが辺りを見回して言う。


遺跡の奥は広くなっていて、未知の文明が造り上げた設備が並んでいた。

研究班が来た時に危険が及ばないように、トオヤたちは念入りに設備を見回った。


(……これは……?)


トオヤがそれを見つけたのは、偶然。

セキュリティ破壊以外では遺跡に触れない戦闘班の彼が、それに手を出してしまったのは何かに導かれたのかもしれない。


未知の設備が並ぶ中、生命維持装置と思われる透明なカプセルの中に、1人の人間が目を閉じて横たわっている。

衣服を着ていないので性別はすぐ分った。

そこにいるのは、まだ少年に見える容姿の男性だ。

肌は白く、華奢で綺麗だと感じる身体。

銀の髪は太腿に届くほど長く、人形のように整った顔立ちは中性的なので、もしも衣服を着ていたら少女と間違えたかもしれない。


(生きてるのかな? それとも死んでる?)


つい、確かめてみたくなった。

それは研究班に任せるべきだと知りつつも、その時のトオヤはまるで吸い寄せられるように近付いてしまった。


『知的生命体の接近を感知』


カプセルに触れた直後、不意に知らない通信が入り、トオヤはビクッと手を引っ込める。


周囲を見回したけれど、他のメンバーは何も聞こえていないのか、異変を感じた様子も無く設備を観察していた。

危険があればライカが反応する筈。

そのライカは後発の研究班にセキュリティの破壊完了を報告している。

入口では研究班が遺跡に入り始めていた。


『ヒューマノイドタイプと認識、言語及び生存可能環境を同期』


謎の【声】は続く。

攻撃の意志は感じられないので、トオヤは慎重に周囲の様子を伺う。


『同期完了、端末【アイオ】起動』


何かを起動するという【声】にトオヤが身構えていると、目の前のカプセルの蓋が音も無く開いた。


「お、おいトオヤ、何やって……」


こちらに目を向けて異変に気付いたベガが言いかけて、言葉を失くす。


カプセルに横たわっていた少年がゆっくりと目を開ける。

開かれたその瞳は、宝石のように綺麗な青紫色。

少年は起き上がり、トオヤを見て嬉しそうに微笑んだ。

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