第46話〈隠していた思い〉後半

 渡された封筒には何枚にも渡る手紙が入っていた。

 僕達は一文字一文字確かめるように読んだが……不思議と島田くんの声で再生された。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この手紙は俺の最後の手紙だ。

今まで思っていた事が全部書いてあるから、長くなってすまない……



〈母ちゃんへ〉

七夕の空襲で生き残って坂本の奥さんも無事だと聞いて安心した。

本当に嬉しかったよ……生きていてくれてありがとう。


母ちゃんに報告があるんだ。

実は『龍虎隊』の一員として宮古島から出撃する事にした。

俺は「龍」という字が大好きだから、志願した『龍虎隊』になれて嬉しいよ。


なぜ龍が好きかというと……

「龍」は「飛」から成長した、将棋の中で一番強い駒だから。

父ちゃんが好きだった将棋の駒に書かれた「龍」……

他にも理由があるが、それが最初のきっかけだ。


母ちゃんに暴力をふるう父ちゃんは許せないけど、沖縄戦で父ちゃんと従兄弟が死んだ事を知らせる手紙を読んだ時に気付いたよ。

俺は心のどこかで父ちゃんとまた笑って会える日を待っていたのかもしれない……


昔の俺だったら信じられないが、俺がこんな穏やかな気持ちで出撃できるのは、土浦で再会したり新しく出会った同期の仲間達のおかげだ。

物好きな奴らでな……嫌われ者だった俺とずっと一緒にいてくれた。


俺がどんな奴らと一緒にいたか、母ちゃんにも知って欲しいから……そいつらへの思いもこの手紙に書きます。



〈篠田へ〉

お前とは不思議と気が合って……俺の余計な事まで話しちまったが、ずっと言えなかったことがある。

実は俺も坂本龍馬が好きなんだ。

お前が何度も「似てるだろ?」って聞いてくるから癪に障って言えなくなった。

言ったら、お前の事が好きみたいな話になるからな。

因みに龍虎隊の出撃日は、俺の誕生日だ。

誕生日が命日だなんて、坂本龍馬みたいで羨ましいだろ?

お前の明るさは、みんなで見上げた夜空の北極星みたいだった……

高田は指し詰め、その周りを回ってる北斗七星だな。

お前らどんだけ仲が良いんだよ!

きっと、どれだけ時が経っても……心は一緒なんだろうな。



〈高田へ〉

お前はバカみたいに純粋で、自分の事より他人の事にいつも一生懸命で……

俺とは正反対の面白い奴だったよ。

俺はお前に色々な事を教わった。

知識だけじゃなく、人として最も大切なことを……

お前の優しさは、知らず知らずのうちに周りを救っている……俺もそのうちの一人だ。

円の外に行こうとする俺を、円の内側に入れて「希望の星」の一員にしてくれた。

これは篠田も言っていた話だが……

お前は、もっと自信を持て!

自分の凄さに……いい加減、気付け!

大切な人を幸せにする力が、お前にはあるんだから。

俺の最後の機体は「赤トンボ」らしいから、お前の下手くそな歌を思い出して笑って逝くとするよ。



〈平井へ〉

最後は平井……いや、リュウ……

この名前で呼ぶのは久し振りだな。

ずっとお前が羨ましかった。

その名前も、父親から愛されていることも、屈託のない笑顔も……


俺の事をずっと覚えていてくれてありがとう。

「離れてる間ずっと友達だと思ってた」と聞いた時、涙が出そうなくらい嬉しかったよ。

本当は俺も……ずっと忘れてなかった。

忘れるわけないだろ?

お前は嫌われ者の、こんな俺の事を庇って「こいつは僕の親友だ」と言ってくれたんだから……


土浦で再会した時、思ったよ。

やっぱりお前はすごい奴だって……

俺もお前みたいに無我夢中で人を守りたいと思った。


これが最後だから、ずっと言いたかったのに言えなかった言葉を言うよ。


「お前は俺の親友だ」


お前の笑顔には、人を幸せにする力がある。

お前の未来は明るい……絶対、大丈夫だ!

いつか必ず夢を叶えてくれ。


もう一人ずっと伝えたいことがあった奴がいたが……

坂本へのメッセージは向こうで伝えることにするよ。

あいつと一緒にホタルに生まれ変わるのも悪くないと思ってな……



最後に〈母ちゃんへ〉

約束して欲しい事があるんだ。


「絶対幸せになって、100歳まで生きてくれ!」


みんな、お国のためにって言うけれど……

本当は母ちゃんと仲間さえ無事でいてくれたら、日本なんてどうでもいい!

俺もできる事なら母ちゃんや仲間と、ずっと一緒にいたかった!

でも俺より若くて弱っちいのが沖縄で命かけたのに、俺が行かなくてどうするって思った。

大切な人を守れずに死ぬのは絶対に嫌だから、俺は行きます。


坂本の奥さんのこと、よろしくな。

最高のライバルの大切な子供が、絶対無事に生まれますように……

子供が大きくなって絶対幸せになれるように、俺の代わりに助けてやってくれ。


最後の想いを暗号に隠したり、飛び立つ前に辞世の句を読む奴もいるらしいが……俺は文才がないからやめておくよ。


母ちゃん……たくさん迷惑かけてごめんな。

こんな息子で、ごめん。

本当は坂本のように嫁さんでももらって、母ちゃんを安心させたかったが……生憎そんな相手はいなくてな。

でも、俺は幸せだったよ。

母ちゃんの息子として生まれて、最高の仲間に出会えた。


誕生日の日に旅立つを不幸を、お許しください。

それにしても不思議な縁だ……

父ちゃんと母ちゃんの旅先だった宮古島で二人が出会わなければ、俺が生まれることはなかったんだからな。


〈同期へ〉

みんなで見上げた星も、桜色の空も、一面のホタルも、信じられない位キレイだった……

ずっと一緒にいてくれて、ありがとな!

皆の幸せを願っています。


追伸

これが俺の最高の仲間だ!

俺も含めて、みんなアホみたいな顔してるだろ?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 封筒の中には百里原で撮った写真と土浦で撮った写真の2枚が同封されていた。

 珍しく写真を撮ろうと言ったあの時にはもう、覚悟を決めていたのだろうか……


「島田のアホう……あいつ……手紙では、めっちゃ雄弁やんけ……そんなに色々考えとったんなら直接言えや…………平井がトミさん守った話聞いて、何や考え込んでんな〜と思うたら……どんだけ負けず嫌いやねん」


 僕はヒロと肩を寄せ合って泣いた。


「ほんと、最後まで島田くんらしいよね…………ねえヒロ……この手紙、一緒に平井くんに届けに行こうよ…………それで土浦の郵便局からみんなで手紙、一緒に出そうよ……」


「すまん、源次……それは一人で行ってくれ…………俺ちょっと上官の所、行ってくる……」


 ヒロの言葉を聞いて、僕は言いたいことが山程あったが……つらいこと続きなので控えた。


 7月29日、島田くんは宮古島から綺麗な空へ旅立った。

 その日は島田くんの……22歳の誕生日だった。

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