第5話 襲来。

 翌日は定休日だったが、優は家で婚約指輪のデザインを考え続けていた。

 外は快晴でお出かけ日和だったが散歩すらしない。


「ん~、いまいちだな」


 新たに一枚ボツにして机に向き直った時。

 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 おっくうそうに立ち上がり、パーツの配達か何かだろうと誰かも確認せずに玄関を開けた。


「はろはろー! 誰か確かめもせずに玄関を開くなんて不用心じゃない?」

「あなたですか! 何しに来たんです!」


 やってきたのは花蓮であった。

 自宅が二階と教えた覚えはないのに何故。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 今はどうやって追い返すか考えるのが先決だ。


「じゃ、行くわよ」


 花蓮は何も説明しないまま優の腕を引っ張った。

 ふわっと石鹸のような香りがする。

 優はなつかしさと共に大学時代「睡蓮の香りなの」と教えられたことを思い出したが、浸っている暇はない。


「待て待て! 行くってどこへですか!」

「弘の職場」

「はぁ?」


 端的すぎてわけがわからない。

 花蓮も優が付いて行けていないのがわかったのか説明を加える。


「弘がファッションコーディネーターであることはもう知ってるわよね? 彼は主にドラマの衣装のコーディネートを引き受けてるの。今日もテレビ局でその仕事をしているわ。その現場を見て、弘のことをもっと理解すればきっと婚約指輪のデザインも思い浮かぶわ」


 それはそうかもしれない。

 客のことを理解することは大事だ。

 しかし。


「わかった。わかりましたから着替える時間を下さい。あと玄関に鍵もかけたいし、財布とスマホも持って出たい。このまま着の身着のままは嫌です」


 優がそう訴えると、花蓮は引っ張っていた手を放して「めんごめんごー!」とまったく反省していない声色で謝ってきた。

 優はため息を吐きながら家に戻り、支度をして改めて花蓮に同行した。

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