第3話 実は……。
一方、優のジュエリーショップを出た花蓮と弘は、さきほどまでのはしゃぎっぷりを何処に置いてきたのか、沈痛な面持ちをしていた。
雨は入店時よりも強くなっており、しとしとではなくザァザァに変化していた。差している傘に当たる音が忙しない。
「雲が……真っ黒ね」
花蓮はそれだけ呟いたが、弘には敢えて口にされなかった『自分たちの未来のようだ』という不穏さを正しく読み取った。
「母さんたちも酷な約束をさせる。花蓮が自分から好きだと伝えることを許さず、想い人から求められ両想いにならないと婚約破棄に応じないとは。しかも期限付き」
すまんな、と弘は避けきれない雨でぬれた花蓮の肩をぽんと叩く。
先ほど弘は優のことを知らないような言動をしていたが、実はあらかじめ色々と身辺調査がされていた。
なので優のことは花蓮と同程度把握している。
それもこれも、優が花蓮の想い人だからだ。
花蓮は苦笑し、しょうがないと、酷なことは承知の上で約束を飲んだのだと真っすぐ弘を見上げる。
「それだけ家同士のつながりを深めるための婚姻の約束は絶対だということよ。あたしも、まさか大学に入ってから初恋が訪れるなんて思ってもみなかったし。その上、その想い人は連絡先も教えてくれないまま姿を消すし」
弘は首を傾げて、根本的なことを問うた。
「あの優とかいう青年、ずいぶんと塩対応だったが、どこを好きになったんだ?」
心底不思議だと言わんばかりの弘に、花蓮はぷっと吹き出す。
「その塩対応が面白かったのよ。今まで弘もお兄さまも甘やかして来たし、他の男子もちやほやしてくれてたからね」
弘はため息交じりに「悪趣味な」と呟く。
「でも、それなら振り向いてもらえたら興味を失くすんじゃないか?」
弘のその懸念を、花蓮は雨すら吹き飛ばしそうな晴れ晴れとした表情で。
「弘にはナイショにしてるポイントがまだあるんだな~。だから、あたしは振り向いてもらえたらもっと優を好きになる自信あり!」
「内緒か。教えてはくれないのか?」
弘が口角を上げ面白そうに尋ねるが、花蓮はくるっと背を向けて走り出す。
傘が斜めになって、綺麗にウェーブしている茶髪も、白いスプリングコートも、全部が濡れていく。
「秘密!」
「こら、花蓮! 走るな! 危ないだろう! ああ、そんなに濡れて……風邪を引くだろう!」
花蓮は「もう子供じゃないんだから!」と指図なんて受けないとばかりに足を速めた。
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