三話

彼を探す。パーティ会場を出て、リディアが行きそうなところを探す。しかし、なかなか見つからない。



「(何処にいるのかしら……リディア様)」



そう思いながら歩いていると、ふと声が聞こえてきた。



「(え?この声って……)」



ウェンディは声のする方へ足を運ぶ。するとそこには信じられない光景が広がっていた。

 


「愛していますわ。リディア様。例え、ウェンディ様と結ばれても。貴方へのこの気持ちは変わりません」



「俺も君のことを愛しているよ」



そう言って二人は熱い口づけを交わしていた。求め合うような激しい口づけを。

それを見たウェンディは、頭が真っ白になった。



どうして?なんで?私がいるのに……私じゃない女とキスしているの……? なんで……なんでなの……?こんなのおかしいよ……! ウェンディはその光景を見ていられなくなり、その場から歩いて走り去った。



そして同時に笑いがこみ上げてくる。



「あははは……」



その笑いは次第に大きくなり、ついには大声で笑っていた。バカみたいだ。今までの浮気も許せた。だってそれは〝婚約者〟だから。でも、これは違う。



だってもう婚約しているから。ウェンディはもうリディアの妻なのだ。なのに他の女性と関係を持つなんて……。そんなこと許されるわけがない。



「……貴方がいけないんですよ?」



そんな独り言に誰も答えることはなく。ただ風だけがウェンディの言葉に応えたように吹いていた。



△▼△▼



あれから一年経った。今日は結婚記念日。ウェンディはこの日を待ち侘びて、ずっと待っていたのだ。あの日からウェンディは変わった。まるで別人のように性格が変わった。誰よりも優しく、献身的で、そしてリディアを一番に愛する人へと。



リディアのために尽くす毎日。全ては愛する人のためだけに。それが今のウェンディである。故に、リディアはまた調子を乗る。浮気を繰り返しているのは聞いた。使用人も黙認しているし、ウェンディも止めようとしない。それでもいい。

全ては愛する人のためだから。



「やぁ。ウェンディ。今日のドレスもよく似合っているね」



「ありがとうございますわ。旦那様もいつも素敵ですわ」



久しぶりの会話だというのに、ウェンディは淡々と言葉を返し、リディアも気にするそぶりすら見せず、ウェンディの手を取る。



二人の婚約記念だからと、使用人は全員休みを出し、二人きりの空間を作る。勿論、寝室には鍵をかけ、防音魔法をかける徹底ぶり。

これなら邪魔されずに済むというものだ。



「ワインでも飲みましょう。お酒はあまり強くないのですけど……今日だけは特別ですわ」



「そうだな。せっかくの記念日だしな」



二人はグラスを傾け、乾杯をする。そしてゆっくりとワインを飲み始める。何の疑いもなく、グラスに口をつけている。それを見届け、ウェンディも飲みながら、



「私、今幸せですわ。だって……好きな人と婚約できたんですもの」



「そうだな。俺も幸せだ」



二人は幸せそうに微笑み、笑い合う。そんな中、ウェンディはグラスに入っていたワインを一気に飲み干すと、リディアはびっくりしながらウェンディを見つめる。



何せ、普段のウェンディなら、ワインを一気に飲んだりしない。ウェンディは表情ひとつ変えず、グラスを置き、そしてリディアに抱きつき、



「ウェンディ……どうしたんだ?」



「すみません、旦那様。なんだか、私……とても」



そこまで言いかけると、ウェンディは突然リディアの唇を塞いだ。突然のことに驚くが、すぐに彼女の背中に手を回すと、激しく求め合うように舌を絡め始める。



そうしているうちにお互いの息遣いも荒くなり、我慢できなくなったのかリディアはウェンディをベッドに押し倒した。そして自ら上着を脱ぎ捨てる。そんな時だった。 



「リディア様……ふふ」



愛おしい笑みに、リディアはもう止まらない。ウェンディのドレスを脱がし、身体中を愛撫する。すると彼女も感じ始めるのか、甘い声で鳴き始めた――。



△▼△▼



溺れてゆく。それはまるで麻薬のように甘く、そして心地よい。そしてそれはこれから永遠のものになるのだ。



「ねぇ。リディア様。愛していますわ」



「ん……?俺も好きだよ」



そして、二人はまたキスを交わす。お互いの愛を確かめるように何度も何度も……



「私も好きですわ。だからここで……一緒に死にましょ……?」



「え?」



その言葉に、一瞬リディアの手が止まり、周りをキョロキョロと見回す。やっているときには気づかなかったが、この部屋には火がつけられていた。

ウェンディは楽しそうに微笑むと、ドレスのポケットからマッチを取り出し更に火をつける。それを見たリディアは青ざめるがもう遅い。



どんどん炎は広がっていき、部屋中が燃え盛っている。逃げ場はない。



「な、何故……!?先までは火なんて……!!」



「うふふ……貴方がいけないんですよ?浮気ばかりして、私をほったらかしにしたから。私、待ってたんですのよ。貴方がこっちに振り向いてくれるのを。だって、私は貴方の婚約者ですもの。でも……もう終わりですわ」



そう言ってウェンディはリディアの首に腕を回し、妖艶に微笑み、リディアの首に手をかけた――。

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