第39話 その姿がやっぱり似合う
そうか。戦争ともなれば、当然民間人からも徴兵される。クラウシェラから教わっていた事だったわ。
部隊というには随分少ないと思ったけど、要はあそこにいるのは部隊全体を統括する騎士。それに配下の職業軍人ね。
数だけで判断しちゃいけない。あれは1軍の中枢を担う精鋭だわ。
「でも、数が少ないわね」
「第6部隊は元々砦の外周を巡回する部隊です。ただいつも全員が外にいるわけではありません。交代で砦に戻って来て――」
「いいわよ、考え付いたことは全部教えて頂戴」
「今日、砦にいるのは隊長である騎士カルツギ・ハイン・フクミールと直属の92人だけです」
「道理で少なすぎると思ったわ。その中でも、領主の娘ごと襲撃しても付いてくる人間ねえ……。不確実な人間を誘ったら情報はダダ洩れ。計画前に捕らえられ、粛清されるのが目に見えている。となればよほど信頼できる部下……というより同士かしらね。ならどんなに多くても全員って事は無いでしょう。だいぶん気が楽になったわ」
なんとなくは理解出来てはいるけど、二人の呼吸が阿吽すぎて考えを挟む余地も無いわ。
なんだか心がもやもやする。
何だろう? あたしのクラウシェラを取られた感じ?
いや違うって。彼女に心を許せる友達が欲しいって考えていたのはあたしじゃない。
そりゃ子供の頃から一緒だったし、それ以上にゲームオーバーも含めれば、どれだけ互いに陰謀を巡らせあったか分からない。ある意味、誰よりも強い絆があるのよ。
まあクラウシェラにとっては不本意な絆だろうけど。
でもそんな事を考えている状態じゃないわよね。
そもそも、あたしは彼女の心の片隅に住み着いているだけ。いわば居候。
いつかは帰る存在だわ。
でもその時、あたしはもう一度、このゲームをプレイできるのかしら。
ううん、やるのよ。クラウシェラとのハッピーエンドを見るためにね。
そしてそれが終わったら……。
「ですが、まだ相手の数は分かりません。この館は火に強いとはいえ、いずれは――」
「突入してくるわよね。火に驚いて飛び出して来る事を狙ったのでしょうけど、そこまで甘くも愚かでもないの。ふふ、飛び出して来るウサギを狩るだけの簡単な作業が、竜の巣に飛び込む羽目になった気分はどんな感じなのかしら」
「た、楽しそうですね」
あ、さすがに引いてる。
分からなくはないけど。
「こちらが襲撃されたとはいえ、軍の一翼を殲滅してしまったら禍根が残るわ。でも一部なら良いのでしょう?」
いやいや、良くは無いと思うよ。
ほら、アリアンがさらに引いてる。
「それに何よりも、わたくしを狙っている勢力がいるのは確か。一枚岩なのか幾つもの集団なのかは分からないけど、少なくとも一つは必ず巨大な勢力よ」
「そういえば、かなり辛い目に遭ったと何度も聞いております」
「それはもう過去の思い出よ。どうでも良いわ。でもこれは、今も続いている問題なのよ。必ず首謀者は捕らえて、聞ける限りの事は全てはいて貰わないとね」
うわー、凄く楽しそう。
ただそれよりも、本当にあの辛かった逃避行を過去の出来事と冷静に割り切っている点に驚いたわ。
昔の――というよりゲームのクラウシェラなら、ちょっとした事でも癇癪を起こして当たり散らしていた。
その中でもあの逃避行の話は、完全に禁句。少しでも話題に出した者がいたら一族郎党首が飛んだものよ。たとえそれが同情の言葉であったとしてもね。
なのに今は、もっと先の事を考えている。
まあこっちもこっちでスケールが上がった分、凄味が増しているけど。
▲ ▼ ▲
クラウシェラの予想通り、階段を駆け上がって来る音がする。
ガチャガチャと金属の鎧が鳴り、放つ地響きは石造りの館を揺らす。
『本当に少ないの? かなり多そうよ』
――50人程度じゃないかしら?
響きからしたらそんなものよ。
それよりも――、
「改めて聞くわ。良いのね?」
アリアンに向けた真剣な眼差し。
そして言葉が意味する事を理解しない彼女でもない。
「彼らは反逆者です。この館に火をつけ、客人を――それだけでは無いかもしれません。私も含んでいる可能性は十分に……いえ、確実に二人とも弑逆するつもりでしょう。一切の配慮は不要です」
「なら、もう良いわね」
とっくに心は決まっていたけど、ここまで何度も確認を取っていた事が意外。
やっぱりゲームとはまるで別人格だわー。
ゲームの彼女だったら、理不尽にアリアンを張り倒した後で砦の人間を無差別に焼きまくっただろうなー。
まあそんな過去設定は無いけど、もうそんな事に意味はない気がするかな。
「あの部屋だ! 突入!」
「目撃者は全員殺せ!」
武装した兵士が、叫びながら扉を蹴り壊して入って来る。
あー、やっぱりそうですよね。
目標がクラウシェラだけであるわけが無いわ。
でも領主の娘なんだから、人質にでもすればいいのに。
それともこいつらって……なんて考えている余裕はないよね。こっちじゃなくて向こうが。
侵入と同時にクラウシェラの竜が無数の蛇のように伸びる。
同時に悲鳴すら上げる事も許されず、最初に入って来た屈強な兵士が炭になる。
2人目も3人目もそうだ。だけどそれ以降は状況を理解した。
突然に上がる悲鳴。階段を転げ落ちる金属音。断末魔の叫び。
当然よね。
「自分たちが何を相手にしているのか、冥界で反省なさい」
腕を組んでにやりと得笑うクラウシェラ。
うーん、絵になるわ。
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